小規模事業場のストレスチェック義務化|2028年施行に備える導入実践ガイド

2025年5月の労働安全衛生法改正により、これまで努力義務とされてきた小規模事業場(労働者数50人未満)でも、ストレスチェック制度が義務化されることになりました。
施行は公布から3年以内、最長で2028年5月までと見込まれており、早めの準備が重要です。
本記事では、2026年2月に公表された「小規模事業場ストレスチェック実施マニュアル」をもとに、小規模事業場が無理なく制度を導入するための進め方とポイントを解説します。

義務化の背景と小規模事業場への拡大

ストレスチェック制度は、労働者が質問票への回答通じて自身のストレス状態に気づき、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ仕組みです。
これまでは労働者数50人以上の事業場に義務付けられていましたが、精神障害の労災支給決定件数が増加していることから、事業場規模に関わらずメンタルヘルス対策が求められるようになりました。小規模事業場は、全事業場数の約95%を占め、労働者数でも約55%に達しており、義務化により社会全体のメンタルヘルス対策の強化が期待されています。

ストレスチェックの基本的な流れ

制度は「準備→実施→フォロー→改善」の流れで進みます。
特に小規模事業場では、プライバシー保護が重要なポイントです。

① 準備:方針・意見・ルールを整える

方針の表明:制度導入の目的や個人情報の取扱いを明確にし、労働者へ説明します
関係労働者の意見聴取:衛生推進者などを中心に、実施方法や情報管理ルールについて現場の意見を集めます。朝礼やミーティングなど既存の場を活用するとスムーズです
社内ルールの作成・周知:意見を踏まえ社内ルールを文書化し、イントラネットなどで周知します。明確化により、導入後の混乱を防ぐと共に、制度を継続的に運用できるようになります

② 実施体制・方法の決定:プライバシーに配慮した体制づくり

 実務担当者の選任

小規模事業場では、個人情報を事業場内では扱わない運用を基本とし、プライバシー保護の観点から外部委託が推奨されます。その上で、実施に関わる担当者は下記の通り配置します。

実施者:ストレスチェックの評価や結果通知を行う役割で、医師、保健師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師などの専門職が担当します
実務担当者:事業場におけるストレスチェック制度の実施計画の策定、委託先の外部機関との連絡調整、実施の管理等の実務を担当します。10人以上50人未満の事業場では衛生推進者または安全衛生推進者が望ましいとされています

実施時期および対象者の決定

年1回実施し、下記の要件どちらも満たす労働者が対象となります。
一般定期健康診断と同基準で、契約の種類や国籍は関係ありません。派遣労働者は派遣元に実施義務があります。

1. 期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者、ならびに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者、および1年以上引き続き使用されている者を含む)
2. その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること

調査票および高ストレス者の選定方法の決定

実施者の意見を踏まえて決定します。調査票は厚生労働省推奨の「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」が一般的で、調査方法は紙・オンラインどちらでも実施可能です。
調査票には以下3領域を含む必要があります。

A:仕事のストレス要因(17項目)
B:心身のストレス反応(29項目)
C:周囲のサポート(9項目)

高ストレス者は、①か②のいずれかに該当する場合に選定されます。

①「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が高い者
②「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が一定以上であり、かつ「仕事のストレス要因」および「周囲のサポート」に関する項目の評価点の合計が著しく高い者

具体的な評価点の算出には以下の2つの方法があります。
個人プロフィールとの関連がわかりやすく精度も高いことから②の「素点換算表を使う方法」を用いるのが一般的です。

(1) 合計点数を使う方法

各項目の回答の点数を、単純に合計して算出する。

メリット:得点を領域ごとに合計するだけなので、複雑な手続きが不要で計算しやすい

(2) 素点換算表を使う方法

各項目の回答の点数を、素点換算表に当てはめ、尺度ごとの評価点を算出する。

メリット:項目数の影響を排除でき、尺度ごとの評価が考慮されたストレス状況を把握できる

③ ストレスチェックの実施:適切な通知と情報管理

調査票の配布、回収

制度内容を事前に周知し、業務時間内で受検できるよう配慮が必要です。受検は任意で、強制や不利益な取扱いは禁止です。

結果の通知

結果は実施者から本人に直接通知します。
封書で事業場経由の配布も可能ですが、内容が見えない形で行います。その際、高ストレス者が特定されないよう通知方法に工夫が必要です。

結果の保存

原則、外部機関での保管が望ましく、事業場内で保存する場合は厳格な管理が必要です。

面接指導と事後措置:高ストレス者へのフォロー

面接指導の申し出

高ストレスと判定された労働者が希望した場合、医師が面接指導を実施します。
申し出は労働者本人の意思に基づくものであり、事業者が強制していけません。事業者は心理的負担に配慮し、場所の選定や日程調整を行う必要があります。

医師による面接指導の実施

心身の状態を確認し、働き方や業務内容についての助言が行われます。
費用は事業者負担し、結果の記録は5年間保存する必要があります。

医師の意見聴取と就業上の措置

面接後1カ月以内に医師の意見を聴取し、労働時間の調整や業務内容の見直し等就業上の適切な措置を講じます。
対象の労働者の意見を尊重し、不利益な取扱いは禁止です。

⑤ 集団分析・職場環境改善

ストレスチェックは個人のストレス状態を把握するだけでなく、部署ごとのストレス傾向を把握する集団分析にも活用できます。
事業場規模に関わらず、努力義務とされていますが、業務量の偏りやコミュニケーション不足など、組織の課題が可視化され、職場改善につながります。
ただし、小規模事業場では個人が特定されないよう慎重な運用が必要です。

小規模事業場での実施のポイント

① 積極的な外部機関の活用

小規模事業場では、専門職が不在の場合が多く、プライバシー保護の観点からも外部機関の支援を積極的に利用することが推奨されています。

◆ 外部機関を活用するメリット

・ 専門職(医師・保健師など)に業務を任せられる
・ 個人情報の管理を外部で完結でき、プライバシー保護をより強化できる
・ 事業者の作業負担を大幅に軽減できる
・ 不利益取扱い防止など、法令に沿った適切な運用がしやすくなる

◆ 利用できる主な外部機関

・ 地域産業保健センター:50人未満の事業場は、産業医による面接指導などを無料で利用可能
・ 民間のストレスチェックサービス:調査票配布〜集計まで一括委託できる

外部委託先を選ぶ際は、法令に沿ったストレスチェックが実施できるか、サポート体制が十分かを確認するため、マニュアルにある「サービス内容事前説明書」を活用しましょう。

② プライバシー保護の徹底と不利益取扱いの禁止

小規模事業場では、労働者同士の距離が近いため、個人が特定されやすいリスクが高い点に特に慎重な運用が求められます。

◆ プライバシー保護の基本ルール

・ 事業者は個人結果を原則取得しないようにし、本人の同意があっても、共有範囲は最小限にとどめる
・ 回答内容・結果は厳重に管理し、適切に保護する
・ 社内で扱う場合、管理者を限定し保管方法を明確にする
・ 安心して回答できる環境を整備する

◆ 不利益取扱いの禁止

労働安全衛生法により、以下を理由に不利益な扱い(解雇、退職勧奨、配置転換、懲戒処分など)をすることは禁止されています。

・ 受検しなかった
・ ストレスチェックの結果内容
・ 面接指導を申し出た、または受けた


ストレスチェック制度は、法令対応として捉えると負担に感じられますが、労働者の健康を守り、人材の定着や生産性向上にもつながる重要な取り組みです。
外部機関の活用や体制づくりを進めることで、負担を抑えつつ導入することができます。
義務化まで時間はありますが、早めに準備を進め、可能であれば試験的に実施しておくことで、施行時の混乱を防ぐことができます。
小規模事業場だからこそ、一人ひとりの存在が大きな価値を持ちます。
制度を上手に活用し、安心して働ける職場づくりを進めていくことが、これからの企業経営を支える大きな力となるはずです。

<参考>
・ 総務省「令和6年経済センサス‐活動調査 速報集計」
・ 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」
・ 厚生労働省「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル」

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宮内 百恵株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

大学卒業後、航空業界でグランドスタッフとして従事しておりました。不規則な勤務体系のため、体調不良等で休職・退職される方が多く、職場の健康管理や働く人の心と身体の健康に関心を持ったことからドクタートラストに入社しました。自身もアンテナを高く張り、皆さまのお役に立てる情報を発信できるよう精進してまいります。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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