今年はコロナウイルスの影響により医療現場が逼迫する状況がある一方で、不要不急の手術や健康診断の延期、蜜を避けるための受診抑制等があり、まだ例年通りの健康診断や人間ドックを受診されていない方も多いのではないのでしょうか。
日本総合健診医学会と全国労働衛生団体連合会の調べによると、今年は昨年の同時期とくらべて約3割健診(事業者健診や特定健診、学校健診、人間ドック)の受診者が減っているとのことです。
確かに、流行時期に受診したり、集合健診で大勢の人が集まることで感染のリスクが上がる可能性はありますが、健康診断を受けないデメリットについても十分考えなくてはなりません。
健診は自分の体と向き合うきっかけに
会社の定期健康診断は労働安全衛生法で、学校健診は学校保健安全法によって、年1回の受診が義務づけられています。
健康診断の目的は病気の早期発見と病気を未然に防ぐことにあります。
(健康診断)
第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第66条の10第1項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
労働安全衛生法
健康診断が近づくと少し食生活に気をつけてみたり、減量に取り組んだりすることはありませんか?
また、健診の結果を見て何か生活改善の取り組みを始める方もいらっしゃると思います。
もし、それらの取り組みがたとえ数ヶ月しか続かないものだったとしても、やはり健康診断を受診することは多かれ少なかれ、自身の健康と向き合うひとつのきっかけとなっているはずです。
今年は「コロナ太り」という新しい言葉が生まれるほど、生活習慣がガラッと変わってしまった方が多いでしょう。
すでに報道されている通り、「糖尿病」や「高血圧」など持病のある方は、持病のない方にくらべて重症化のリスクが高いと言われています。
国内の報告ではありませんが、基礎疾患を持っている方の中で死亡率を比べてみると、心血管疾患は10.5%、糖尿病は7.3%、慢性呼吸器疾患は6.3%、高血圧が6%というデータがあります。(JAMA(アメリカ医学会雑誌)掲載、中国疾患コントロールセンターの報告より)
他にもアメリカの調査では、コロナウイルス感染症に罹患した人の中で「1つ以上の基礎疾患がある患者」の割合を、①入院なし、②一般病棟、③ICUで比較すると、①<②<③の順で高いと報告されています。
これは、重症度が高いほど基礎疾患を持っている方の割合が多いことを示しており、基礎疾患がコロナウイルス感染症の重症度に影響を及ぼしていることを示唆しています。(Preliminary Estimates of the Prevalence of Selected Underlying Health Conditions Among Patients with Coronavirus Disease 2019 – United States, February 12-March 28, 2020)
健康診断を受診しないままで過ごしていると、気づいたら糖尿病や高血圧を発症する可能性もありますし、治療を受けるほどではなかった方が急に悪化していることも考えられます。
また、がん検診(乳がん、子宮がん、大腸がん、胃がんなど)を受診しないことで、治るはずのがんの発見が遅れてしまう可能性も考えられます。
感染対策の取り組みをしながら
企業によっては、今まで集合健診で実施していたものを、個別に医療機関で受診するように変更したり、健診の受診時期を従来よりも長く設定するなどの取り組みをされていると思います。
新型コロナウイルス感染症が一体いつ収束するのか、いつになったら治療薬ができるのか、現時点ではまだ断言できることは何もありません。
これから先、インフルエンザ等の流行時期になることやコロナウイルスとの同時流行の可能性を考えると、気候の落ち着いているこの時期での受診がひとつの目安にはなると思います。
しかし、今まで受診できていない方すべてが10月や11月に受診することは、受け入れ態勢の問題もあり難しいのも事実です。
自身の健康に不安のある方は早めに、また例年特に問題のない方は逆に寒い時期を避けて、インフルエンザの流行が少し落ち着いてくる2月下旬~3月頃に受診するなど、それぞれが自身の体に合わせて実施していく必要があります。
病気はコロナだけではない
コロナウイルス感染症は今全世界で取り組んでいかなくてはならない大きな課題ですが、そればかりにとらわれて、健康のため(=コロナウイルス感染症予防のため)に不健康(=他の病気になる)になっては本末転倒です。
生活習慣病の早期発見やコントロール、早期発見して治療できる病気の発見など、長期的なメリットにもぜひ目を向けてください。
健康診断の受診方法や時期を考え、また受診の際にはなるべく静かに(飛沫は感染拡大の一番の要因です)ということも忘れず、それぞれにとって良い時期を今一度考えてみましょう。
<参考>
・ 一般社団法人日本総合健診医学会、公益社団法人全国労働衛生団体連合会「新型コロナ感染拡大による健診受診者の動向と健診機関への影響の実態調査結果」