「不妊治療を受けている」と言えない従業員の苦悩~特別視しない職場づくりへ~

不妊治療と仕事のために企業・職場が出来ること

2020年3月19日、厚生労働省が「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」と「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」を公表しました。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、不妊を心配したり悩んだことがあるカップルは3組に1組、また、不妊に関する検査や治療を受けるカップルは、5.5組に1組とされており、どちらも増加傾向にあります。
また、不妊症治療の一つである体外受精実施権数に関しては、統計を取っている諸外国の中で1番多く、生まれてくる16.7人に一人が不妊治療を受けたカップルの間に誕生しています。
女性が妊娠できる力は20代をピークに徐々に落ちていき、35歳を過ぎるとそのスピードが速くなるといわれています。
ただ、20代~30代前半というと、仕事でさまざまなことを経験し、キャリアを積んでいくのに重要な時期でもあり、社会における女性の活躍が、これほどまでに日本において不妊症治療が多くなってきた理由と大きく関わっています。
今回は不妊治療の実際と、仕事と治療の両立支援のために職場ができることをわかりやすく解説します。

不妊治療の実際

不妊治療は大きく分けて、タイミング法・人工授精・体外受精があり、その人の年齢や状況に合わせて治療法の選択・ステップアップをしていきます。
どの治療法も、月に1回の受診では済まず、連日であったり1~2週間に1回の受診が必要になってきますが、女性の月経周期にあわせて進んでいくため、その月の身体の状況に合わせて、予想していた受診日がずれてしまったり、受診必要回数が多くなったりなど、スケジュールを立てて動くことが難しいのが現状です。
不妊治療をしている多くの働く方が、スケジュール調整の困難さを感じています。
また、治療には、服薬による副作用や仕事との両立の難しさ、治療がうまく進まないこと、高額な治療費など日常の中で身体・精神・経済に大きな負担が加わります。
1回の治療で妊娠できれば良いのですが、妊娠できる可能性は平均20~30%ほど、平均治療期間は約25か月間ともいわれており長期戦となるのが現実です。
この間、治療と仕事の両立をしっかりとしていくことは容易ではありません。
これを書いている私も実際に不妊治療と仕事の両立を経験している一人です。
その中で、服薬による体調の変化や2人目不妊だったこともあり、仕事・家事・育児・治療全てを両立することによる疲労、妊娠すること・継続することの難しさ、仕事と治療のスケジュールの両立の難しさなどさまざまな点から、仕事と不妊治療を続けることの困難さを感じ、途中で何回か治療を中断してしまうこともありました。

不妊治療と仕事の両立は難しい

2017年に厚生労働省が行った調査において、不妊治療をしたことがある(または、予定している)人の中で、「仕事と両立している(または、両立を考えている)」とした人の割合は53.2%、「仕事との両立ができなかった(または、両立できない)」とした人の割合は34.7%でした。
同じく2017年にNPO法人Fineが調査した結果によると95.6%が「仕事と不妊治療の両立は困難」と回答しています。
つまり、両立をしている人の中でも、仕事と不妊治療の両立に困難さを抱えている人が多いということがわかります。
また、不妊治療を職場に伝えているかどうかという質問に関して58%の人が一切伝えていないと回答しています。
この背景には、知られたくないという思いと、知られることによって今まで頑張ってキャリアを重ねていた仕事で不利益なことが起こるのではないかという懸念から伝えないことが多いのが現状です。
一方で、企業・職場の状況はというと、約7割の企業で、不妊治療を行っている従業員の把握ができておらず、不妊治療を行っている従業員が受けられる支援制度がある企業は3割程度にとどまっています。
冒頭でお伝えしましたが、5.5組に1組のカップルが不妊治療を受けているとされる現在、皆さんの職場の周りにも、不妊治療をしていて仕事との両立に悩んでいらっしゃる方がいるかもしれません。
働く人が不妊治療を行うこと、それは何も特別なことではなくなってきています。

不妊治療と仕事の両立のために企業・職場ができること

不妊治療を受ける人の多くは、業務においてある程度の責任を持っているなど働き盛りの世代です。
そのため、企業が不妊治療をする社員にあった制度を整えることは、貴重な人材の喪失や新たな採用コスト増加などを防ぎ、安定した労働力の確保や、従業員のモチベーションの向上など企業にとってのメリットへとつながっていくことが予想されます。
では、企業・職場として何ができるでしょうか。
まずは、不妊治療を特別視するのではなく、他に仕事との両立で課題となる育児や介護、病気療養などを支援していくというメッセージをトップや管理職が伝えていくことは有効です。
そして、その企業・職場にあった両立支援のための方法を考えるためには、実際に不妊治療を受けている社員がどれくらいいるのか、どのような制度を求めているかの把握が必要です。
また、不妊治療をしていることを誰にも相談をすることができない状況では、仕事を休んだり、遅刻・早退することが難しくなり、治療をスムーズに進めることができなかったり、制度をせっかく整えたとしても、制度の活用につながらないこととなってしまう可能性があるため、相談のしやすい環境の醸成が大切でしょう。
どのような方法で進めていけばいいのかに関しては、「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」と「不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック」をぜひ活用してみてください。

<参考>
厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に関するマニュアルとハンドブックを作成しました」

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吉尾 清乃株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

大学在学中に働く世代の方々の健康の大切さに興味を持ち、保健師になって約10年。今までいろいろな現場にてメンタル身体問わず健康の大切さをお伝えさせていただいてきました。働き盛りの忙しい時期にご自身の健康にいかに気を気を使えるか、これがこれからの人生100年時代をイキイキと生き抜けるかどうかに非常にかかっています。そのお役に立てるよう忙しい中でも読んでよかったと思える情報をお伝えしていきます。
【保有資格】看護師、保健師、第一種衛生管理者、人間ドック健診情報管理指導士、健康運動指導士
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