東日本大震災の発生から先月で8年。
地震大国である日本は昔からたくさんの震災を経験していますが、東日本大震災を機にオフィスでも水や食料などを備蓄するようになった企業も多いのではないでしょうか。
しかし皆さん、「災害用トイレ」もきちんと備蓄していますか?
実は災害用トイレは従業員の命を守るために水や食料と同様に欠かせないものです。
「知らなかった」では済まされない、災害時のトイレ事情について今回はお話します。
なぜトイレの備蓄?
皆さんは、1日に何回トイレに行きますか?
健康な成人であれば最低でも5回以上は行くはずです。
当然ですが、どんな大きな震災時にもお腹が空くのと同じように、トイレにも行きたくなるのが人間です。
日本トイレ研究所の調査によると、東日本大震災発生時に発災から9時間以内にトイレに行きたくなった人は78%でした。
しかし実際に、東日本大震災の現場で何が起こったか、ご存知でしょうか。
水洗トイレは震災によって排水管が破損したために水洗機能を失い、ほとんどすべてのトイレが使えなくなってしまいました。
これはどんなに大きく立派なオフィスビルであっても同じです。
「でも、仮設トイレを使えるんでしょう?」と思った方、それも間違いです。
名古屋エコトピア科学研究所の調査によると、東日本大震災の際に仮設トイレが避難所にいき渡るまでに要した日数は、3日以内と答えた自治体がわずか34%で、最大で65日もの間仮設トイレが設置されなかった避難所もありました。
そんなに長い期間、トイレを我慢できるはずがありませんよね。
そのため、もともとあったトイレは水洗できないにもかかわらず発災直後に利用した人の糞尿の山で汚れ、悪臭を放ち、最終的にはとても足を踏み入れられる場所ではなくなりました。
応急トイレとして、地面に穴を掘って木の板を置き、ブルーシートとすだれで囲ったトイレを作った自治体もあったようですが、数が少なく不便、男女共用でプライバシーも確保できず、汚れや臭いがあり、屋外ですので夜間は暗く、危険なものでした。
では、そこにいた人々はどうなったのでしょうか。
不潔なトイレが被災者に及ぼした影響
皆さんがこんな状況に置かれてしまったらどうしますか?
実際のところ、多くの被災者がなるべくトイレに行かなくて済むようにと、食事や水分の摂取を控えました。
大震災という極限状況の中、生きていくうえで欠かかせない食事や水を摂取しなかった結果、多くの人が脱水状態に陥り、低体温症、エコノミークラス症候群、脳梗塞、心筋梗塞などにより、命を脅かされました。
また、そうでなくても低栄養やストレスなどが原因で多くの人の免疫力が低下しました。
そのような状態でウイルスや菌の温床である不衛生な簡易トイレを使わざるを得なかったこと、手洗いやトイレの清掃をするための水がなかったことから、避難所内ではインフルエンザやノロウイルスによる胃腸炎などの感染症が蔓延しました。
これらの感染症は、子どもや高齢者でなく、皆さんのような健康な成人であっても、免疫力が低下した状態であれば命の危険につながります。
清潔で安全なトイレがなかったことで、人々の命や健康がこれほど脅かされたのです。
また安心してトイレができないこと、プライバシーが守られないことは、人としての尊厳を傷付けることであり、震災でダメージを受けた人々の心までをも蝕みました。
会社としてすべきこと
では、どうすればこのような事態を避けられるのでしょうか。
それは安全で清潔に使える災害用トイレを自宅やオフィスに備蓄しておくことです。
災害用トイレにもさまざまな種類がありますが、自宅やオフィスでも簡単に備蓄できるのは次の2種類です。
◆携帯トイレ
価格目安:6,000~15,000円/100回分
備蓄数目安:最低でも従業員ひとりにつき1日5回分×7日分=計35回分
・ 使用できなくなった水洗トイレの便器にかぶせて使用する袋タイプ
・ 1枚あたりが薄くてかさばらず備蓄しやすい
・ トイレにかぶせて使用し、使用後は袋を回収して処分するだけ
・ トイレそのものが汚れることがなく衛生的
・ 袋の内部に吸水シートや脱臭・除菌機能があり、漏れや臭いが気にならない
・ 使い慣れたオフィスのトイレを利用でき、プライバシーや安全性が確保され、誰もが安心してトイレに行くことができる
◆簡易トイレ
価格目安:5,000~6,000円/1基+交換用袋代(携帯トイレ参照)
備蓄数目目安:従業員50人につき1基・交換用の袋は携帯用トイレと同じ数
・ もとあるトイレの便器ではなく、便器の代わりになるものを組み立てて使うトイレ
・ 簡易トイレに携帯トイレを組み合わせて使うタイプのものもあり、確認が必要
・ 地震により便器そのものが破損して使えなくなってしまったときにも使用可能
・ 組み立てる人員と設置場所が必要なので、誰が組み立てて、どこに設置するか、あらかじめ取り決めておくとよい
・ 使い慣れない便器を使うことになるため、災害訓練の一環として、一度組み立てて従業員に座ってもらう機会を設けておくとよい
最近は大きな地震や豪雨などの災害が相次いだ影響もあり、災害対策に関するお問合せが増えています。
災害対策を万全にすることも企業が果たすべき安全配慮義務の一環ですので、対策が足りず従業員の命や健康が脅かされた場合は安全配慮義務違反に問われることもあります。
この機会に、一般的な水や食料だけでなく、見落としがちなトイレや、女性用の生理用品、水のいらない手洗い用品など、衛生用品の備蓄を検討されてみてはいかがでしょうか。
オフィスでどんな災害対策をしたらいいかわからない、何を備蓄すればよいかなど、お困りでしたら「産業保健新聞」を運営するドクタートラストの保健師にご相談くださいね。
貴社に合わせた最適な災害対策を一緒に考えます。
<参考>
・ 日本トイレ研究所「災害用トイレガイド」
災害用トイレに関するさまざまな情報を写真付きで紹介されています。
・ 国土交通省「災害時に使えるトイレ」
災害時のトイレに関してわかりやすい動画や漫画で説明されています。