最新データから読み解く、熱中症災害の傾向と防止のポイント
- 2025/7/4
- 夏

年々厳しさを増す夏の暑さは、職場にも深刻な影響を及ぼしています。
厚生労働省が公表した2024年の「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)によると、熱中症による職場での死傷者数は過去最多を記録しました。
高温多湿な夏の現場では、適切な対策を怠ることは、時に取り返しのつかない結果につながります。
本コラムでは、厚生労働省の公表データをもとに、発生傾向や背景、そして強化された対策について、2025年6月から法律で義務化された職場における熱中症対策を踏まえて解説します。
過去最多を更新!死傷者数1,257人・死亡数31人に達する
厚生労働省が2025年5月30日に公表した確定値では、2024年に職場で熱中症による死傷者数(死亡者及び休業4日以上の業務上疾病者の数)は1,257人に達し、前年(1,106人)から151人と約14%の増加となりました。
こちらは統計を取り始めた2005年以降、最多となっています。
また、死傷者数のうちの死亡者数は31人(前年と同数)で、依然深刻な状況が続いています。
この数字をさらに見ていくと、死傷者数の約40%が建設業と製造業に集中しており、死亡者数も建設業(10人)と製造業(5人)で多いことが特徴としてみられます。
高温多湿な現場や重労働環境では依然として熱中症リスクが高く、業種ごとの対策強化が課題です。
「いつ・誰が」被災しているか【傾向の分析】
死傷者数・死亡者数は月・時間帯・年齢層別にそれぞれ特徴的な傾向が見られます。
● 月別:7~8月に集中
死傷者数1,257人のうち、約80%が7月(588人、約47%)と8月(431人、約34%)の2か月間に集中している状況でした。
また、死亡者数31人も、30人が7~8月に起こっており、7~8月の暑熱環境が熱中症リスクを上げたことが見受けられます。
● 時間帯別:日中から夕方に多発
時間別では、午前中や午後3時前後にかけて死傷者数が多くなっていますが、いずれの時間帯でも発生しています。
死亡者数についてもいずれの時間帯で発生しています。
なお、気温が下がった17時以降にも死亡に至った事例も少なからずみられます。
これらの多くは、日中の作業中には重篤な症状が見られなかったものの、作業終了後や帰宅後に体調が悪化したケースを含んでいます。
● 年齢別:50歳代以上に多い
死傷者数全体の約56%が50歳代以上、さらに死亡者数の約68%が50歳代以上という中高年層(50歳代以上)での高い発生率が確認されています。
一般的に高齢者は、加齢に伴う身体機能の低下などの影響により、熱中症を発生するリスクが高いとされていることから、死亡災害に至る割合が高くなっていることが考えられます。
初期対応の甘さが命を奪う、義務化された対策
死亡災害の背景には、発見の遅れや重篤化後の救急搬送の遅延、初期対応の放置など対応の遅れが多く見られます。
こうした状況を踏まえ、2025年6月1日から改正された労働安全衛生規則(第612条の2)に基づき、事業場に次の3点が義務づけられています。
① 熱中症のおそれがある作業者を早期に発見するための体制整備
② 熱中症の重篤化を防止するための措置手順の作成
③ ➀、②の体制や手順の関係作業者への周知
さらに、厚生労働省では「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」(5〜9月)を踏まえ、次の3点を重点的に取り組むよう呼び掛けています。
• 暑さ指数(WBGT)の計測と対策の実施
• 労働衛生教育の強化
• 糖尿病や高血圧など基礎疾患のある労働者への配慮
• 初期対応・救急搬送体制の確認
万が一の発症時に命を守るためには、現場での初期対応が極めて重要です。東京都医師会では、熱中症発症時の適切な応急処置として「FIRST(ファースト)」での対応を推奨しています。
• Fluid(液体):まずは水分補給。意識がない場合は無理に飲ませず119番通報を。
• Ice(氷):衣服を緩め、うちわなどであおいで体を冷やす。冷たいタオルや氷、保冷剤もあれば利用する。
• Rest(休憩):涼しい場所に移動して、休ませる。
• Sign(兆候):15分ほど経過したら症状を確認する。
• Treatment(治療):症状が改善しなければ119番通報し病院へ搬送する。
この「FIRST」をあらかじめ職場全体で共有し、即時に行動できる体制を整えることも、重大な災害を防ぐ鍵となります。
より詳しい対策については以下の記事で解説しています。
熱中症対策の再確認を【現場の安全管理に向けて】
熱中症は、適切な対策を講じることで防げる労働災害です。近年の猛暑傾向と被災事例の増加をふまえ、企業や管理者は今一度、現場のリスク評価と対策の見直しを行う必要があります。
一人ひとりの命を守るために、計画的かつ実効性のある熱中症対策が求められています。
<参考>
・厚生労働省「令和6年『職場における熱中症による死傷災害の発生状況』(確定値)」
・厚生労働省「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)」
・公益社団法人 東京都医師会「梅雨入り前から熱中症予防対策を!!」