2023年10月13日、厚生労働省が「令和5年版 過労死等防止対策白書」(以下、本白書)を公表しました。本白書は、過労死の実態を分析したもので、これによると、睡眠時間が理想より少ない人ほどうつ病の疑いや不安を感じる人の割合が高くなることが明らかとなりました。
十分な睡眠時間がとれていないと、こころへ悪い影響を及ぼすほか、自身でも気づかないうちに脳のパフォーマンスを著しく低下させたり、さまざまな病気のリスクを高めることがわかっています。睡眠時間が少ないといわれている日本人の、特に働き盛りの人々において睡眠の見直しと対策は非常に重要といえます。
①睡眠時間が少ないほど、うつ傾向の割合が多く幸福度の低い人が多い
本白書によれば、理想の睡眠時間として「7~8時間未満」をあげる人が最も多かった一方、実際の睡眠時間は「5~6時間未満」が最多であり、差のあることが明らかとなりました。
そして、実際の睡眠が理想の睡眠時間から不足するほど、うつ病などの疑いのある人の割合が高まるという傾向がみられ、理想より2時間不足している人においては、約5割がうつ傾向やうつ病などの疑いがあると示されました。
図1:理想の睡眠時間と実際の睡眠時間
図2:理想の睡眠時間との乖離とうつ傾向・不安
また、実際の睡眠が理想の睡眠時間から不足するほど、主観的幸福感も低くなる傾向がみられました。理想の睡眠時間以上の睡眠がとれている人と比べて、理想より2時間不足していると、幸福感が10段階中8以上の比較的幸福感の高い人の割合においては約半分ほど少なくなっていました。
睡眠時間とうつ病や主観的幸福感の関係性から見ても、睡眠はこころへ大きく影響していることがわかります。
図3:理想の睡眠時間との乖離と主観的幸福感
②労働時間が長い人ほど、睡眠不足で疲労を感じている
労働時間が長くなるほど、理想の睡眠時間と実際の睡眠時間に差が大きく開いていく傾向があり、睡眠に不足感を感じる人が増えることが明らかとなりました。
また、労働時間が長くなるほど、翌朝に前日の疲労を持ち越す頻度が増える傾向のあることも示されました。2つのことを踏まえると、十分な睡眠をとり、翌朝に疲れを持ち越さず毎日元気に過ごすには、労働時間が長い場合は見直すことも大切であることがわかります。
図4:1週間当たりの実労働時間と理想の睡眠時間との乖離
図5:1週間の実労働時間と疲労の持ちこし頻度
③睡眠は脳や体の疲れをとり、心身を修復するために必要な時間
私たちは睡眠中にただ体を休めている訳ではなく、心身を修復させたり、記憶を整理して定着させたり、傷ついた細胞を修復させています。つまり、日々の睡眠で心身の休息とメンテナンスを行っており、毎日こころと体を元気な状態にして過ごすためには睡眠は不可欠です。心身の健康のために必要な睡眠時間は、個人差はあるものの、成人の場合は6~7時間前後が目安なので、そちらの時間を日々の睡眠時間を調整するように意識しましょう。
十分な睡眠がとれるよう、個々人で睡眠時間を優先して確保する、仕事を切り上げられるよう工夫をする、家事の効率化を図るなどの心掛けも大切ですが、労働時間が多くなっている会社では、会社側の方で社員の方々が睡眠時間をとれるように、時間外労働の見直しも今一度取り組むようにしていくことが望ましいです。
④睡眠の「質」も忘れずに!
睡眠の「時間」も大事ですが、「質」にも気を配れていますでしょうか?十分寝ているのに、朝起きてすっきりしなかったり疲れが残っている場合は良質な睡眠がとれていない可能性があります。そのような方は、睡眠の質を上げるためのポイント3つを心掛けるようにしましょう!
眠る前は自分なりの方法でリラックス
眠る前に体や心のリラックスを図るとスムーズな入眠に入ることができます。軽い読書や音楽、ストレッチ、入浴など自分にあった方法でリラックスを図ってみてください。ただし、お茶やコーヒーなどに含まれるカフェインは覚醒作用があり、タバコに含まれるニコチンは寝つきを悪くさせるので、カフェイン入りの飲料は寝る4時間前まで、喫煙は寝る1時間前までに済ませるようにしましょう。
起きたら朝日を浴びる
私たちの体には生体リズムを調整する役割を担っている体内時計が備わっています。体内時計は24時間より少し長くなっているため、毎日調整をしないと少しずつ後ろにズレていってしまいます。朝の光には体内時計をリセットする効果があるため、まずは起きたらカーテンを開けて太陽の光を浴びるようにしましょう。
規則正しい生活をする
夜にかけて眠くなる生体リズムをつくるために、生活リズムを整えることが大切です。できる限り3食を同じタイミングで摂るように心掛けたり、就寝・起床時間を一定に保つようにしましょう。休日はどうしても朝遅くまで寝ていたいという方は、平日との起床時間の差を1~2時間までにとどめておくことが望ましいです。
【参考】
・厚生労働省「令和5年版 過労死等防止対策白書」