今年の4~5月は、「退職代行」という言葉を以前より耳にした印象があります。
「退職代行」とは、従業員が退職するにあたり、退職の意思表示やその後の手続きを業者に依頼し、去る企業と関わることなく退職手続きをするものですが、4月や5月はこのサービスを利用した新入社員が多かったようで、頻繁にメディアで取り上げられていました。
採用・研修担当をする身としては他人事には思えず、ネットニュースの見出しで見かけるたびについ詳細を読んでドキドキしてしまいました。
東京商工会議所は、2024年4月22日に「2024年度新入社員の意識調査」および「企業の人材育成担当者による新入社員・若手社員に対する意識調査集計結果」を公表しました。
前者は新入社員に社会人生活や仕事に関するアンケートを取り、後者は迎え入れる側である企業の人材育成担当者にアンケートを取ったものです。
2つのアンケートを比較してみると、入社する側、新入社員を迎える側の意識や、そのギャップが少し見えてきました。
新入社員が社会人生活で不安に感じることは?
新入社員を対象に実施したアンケートによると、新入社員が社会人生活で不安に感じることとして「仕事が自分の能力や適性に合っているか」「上司・先輩・同僚とうまくやっていけるか」「仕事と私生活とのバランスがとれるか」が上位3項目に挙げられていました。
そのほか上位の項目を見ても、大きく分けると「職業適性・知識」「周囲の環境」「ワークライフバランス」の面で不安を抱えているようです。
これまでの経験を生かして働く中途入社とは違い、初めて社会人を送る新卒の社員にとっては「選んだ仕事が自分に合っているか」「求められる仕事がこなせる能力が自分にあるのか」は特に心配する要素のようです。
そんな不安を抱えている新入社員だからこそ、先輩社員から見れば取るに足らない失敗にも深く落ち込んだり、仕事でつまずいたときに、「自分にこの仕事は向いていないのでは?」と思ってしまうのかもしれません。
多くの先輩社員や上司の方は「最初から完璧に仕事ができる人なんていないし、入社して数カ月の段階で、自分にこの仕事が合っているかを判断するのは早い」と感じられるかもしれませんが、「いち早く会社の戦力になりたい!」と思うからこそ、こんな悩みが生まれてくるのかもしれませんね。
これに対して育成担当者を対象にしたアンケートでは、若手社員の育成で困っていることの第1位として「若手社員が(ストレスやトラブルに対して)打たれ弱い」が挙げられていました。
特に新入社員の教育に当たる際は「打たれ弱い」で済ませるのではなく、きちんとできていることを口にして褒め、一方で課題と捉えられることには「これから身に着けてほしいスキル」としてきちんと示すだけでも、新入社員にとっては頑張る方向性が見えて、モチベーションにつながるかもしれません。
身に着けたい/身に着けてほしい能力のギャップ
新入社員/育成担当者それぞれに「『社会人基礎力』として、仕事をするうえで大切にしたい/大切にしてほしい能力」を選んでもらった設問では「主体性(物事に進んで取り組む力)」「実行力(目標を設定し確実に行動する力)」は共通して上位に挙がっていました。
一方で、「規律性(社会のルールや人との約束を守る力)」は、新入社員は6.8%に挙げている一方で育成担当は33.7%と、大きなギャップが見られました。
あくまで想像ですが、「ルールを守るなんて当たり前のことで、今さら能力として身に着けるべきことなのかな?」と思う新入社員の一方で、育成担当者や管理職の方は、若手社員がルールを守ってくれずに苦労してきた経験があるのかもしれません。
新入社員にとっては、企業において何が大切なルールなのか、それを守らないとどんなことが困るのかまでイメージしきれない可能性もあります。
育成担当者は「常識でそれくらいわかるだろう」で済ませるのではなく、研修内容にきちんと社内ルールを取り上げるほか、日頃の業務中にも「ルールを守らないことでどんなことが困るのか、リスクになりうるのか」など、そのルールがある背景まで説明すると、納得したうえで規律を守ることにつながるのではないでしょうか。
コミュニケーションの取り方に迷ったら
有名な言葉ではありますが、大日本帝国の海軍連合艦隊司令長官だった山本五十六の格言に「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ(まずは実際に自分がやって見せて、しっかりと説明をして理解してもらい、その後実践させる。そしてその行為を褒めてあげなければ、人を動かすことはできない)」があります。
教育担当、育成担当の方にとっては「世代が違うから、どうコミュニケーションを取っていいのかわからない」という悩みもあるとは思いますが、個人的には、迷ったときに立ち返るのはこの言葉だと思っています。
もちろん、調査結果はあくまで傾向であり、個々人で仕事に対する思いやキャリビジョンは異なります。
この調査の結果がすべての新入社員の考えとは限りませんが、今回の調査は、新入社員の教育を任された方にとって、「どんなことに困っているのだろう」「どんなキャリアビジョンを抱いているだろう」という観点で参考になる情報も多いと思います。
育成担当を任された方は一度目を通してみられはいかがでしょうか。
<参考>
・ 東京商工会議所「『企業の人材育成担当者による新入社員・若手社員に対する意識調査』の集計結果について」
・ 東京商工会議所「『2024年度 新入社員意識調査』の集計結果について」