「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」の報告書公表
- 2019/8/15
- 産保新聞ニュース
2019年8月8日、厚生労働省は「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」の報告書を公表しました。
「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」とは
副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会は、副業・兼業を行う労働者について、健康確保の観点から有効な労働時間管理などを検討するため、2018年7月から2019年7月までに9回にわたり開催したもので、① 健康管理、② 上限規制、③ 割増賃金の3つに論点が分類されました。
「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」報告書では各論点における歴史的経緯・ヒアリング・諸外国の視察結果を踏まえ、今後の方向性について考えられる選択肢の例示が以下の通り整理されています。
① 健康管理
労働安全衛生法上は複数の事業者間の労働時間を通算するとはされていません。
一方、副業・兼業をする労働者の健康確保の観点から、労働者の自己申告を前提に各事業者において労働時間を通算し、把握するという考えがあります。
これを踏まえると以下のような制度の見直しが考えられます。
<労働時間を通算する方法>
(1) 事業者は、副業・兼業をしている労働者について、通算労働時間などを勘案し、面談を行ったうえで労働時間短縮など健康確保措置を講じる。
(2) 上記(1)で把握した労働時間が、1週間あたり40時間を超えており、かつ超えた時間の合計が1ヶ月あたり80時間を超えている場合は、労働時間の短縮措置などを講じる。もし自らの事業場における措置のみで対応が困難な場合は、労働者に対して副業・兼業先と相談させることを義務づける。また、労働者の申出を前提に産業医面談などを行う。
<労働時間を通算しない方法>
副業・兼業をしている自己申告があった場合に、産業医面談やストレスチェック制度など、現行の健康確保措置の枠組みに何らかの形で組み込む。
② 上限規制
労働時間の通算を行ううえで複数事業場の労働時間を厳密に管理することは実務上非常に困難です。
結果として、違法状態が放置され労働基準法に対する信頼性が損なわれかねないこと、労働者が保護されない事態になりかねないことを踏まえると、以下のような制度の見直しが考えられます。
(1) 自己申告を前提とした労働時間管理方法を設ける(例:1日単位ではなく、週・月単位での労働時間の上限規制を設定し、各事業主の管理のもと労働時間を設定内に収める)。
(2) 上記(1)の規制適用とともに、適切な健康確保措置を講じる。
③ 割増賃金
上記②のとおり、労働時間の通算は非常に困難であり、結果として、違法状態が放置され労働基準法に対する信頼性が損なわれかねないこと、複数事業場の労働時間を通算して割増賃金の支払義務があるために長時間労働の抑制機能を果たしていないことを踏まえると、以下のような制度の見直しが考えられます。
(1) 自己申告を前提に、割増賃金を支払いやすく、かつ時間外労働の抑制効果も期待できる方法を設ける(例:事業主側で把握できる兼業・副業の所定労働時間のみを通算して割増賃金の支払を義務づける)
(2) 各事業主のもとで法定労働時間を超えた場合のみ割増賃金の支払を義務づける。
副業・兼業が国を挙げて推進される一方、労働者の健康管理や割増賃金の支払義務の所在など、課題は多々あります。
いずれもその根底にあるのは「労働時間の管理」です。
副業・兼業が増加しつつある今、事業主側で管理体制だけを構築するだけではなく、労働者自らが自身の健康へ意識を向けること必要不可欠でしょう。