今こそ卒煙!会社の禁煙支援はどうして失敗する? ポイントは「対立構造を生まない」

今こそ卒煙!会社の禁煙支援はどうして失敗する? ポイントは「対立構造を生まない」

2000年頃から広がり始めた「卒煙」という言葉。
喫煙を絶つ行為そのものは「禁煙」と同じですが、禁止をイメージしてしまう禁煙よりも、卒業をイメージする卒煙のほうが、喫煙対策を促す保健師の立場としては使いやすさを感じています。
また、一時的に喫煙を絶つのではなく完全に喫煙を卒業することを目的とした場合にも、「卒煙」はピッタリなワードです。

2020年4月に改正健康増進法が施行され、屋内が原則禁煙になるなど受動喫煙対策がマナーからルールへ変わったことなどを皮切りに、喫煙施策に取り組みだした企業も多いでしょう。
今回は、企業における喫煙対策が取り組みづらい理由、およびそれを克服するポイントを解説します。

1番取り組みづらい健康施策?ルールが守られづらい喫煙対策

これまで筆者が保健師として勤めてきたなかには、就業時間内禁煙をルールとしていた会社が2社あったものの、このうち一社では残念ながら守られていませんでした。
この会社では、喫煙していても誰も注意せず黙認している状況が続いており、「誰かがやっているなら自分も」といった雰囲気だったように感じます。
ルールになっていたとしても守られなければ意味がなく、同じルールを設けたとしても、その会社の風土、社風によっても従業員に受け入れられるか否かが違ってくるように思います。
ただし、ルールが守られていた会社でも、就業時間が終わればその後は喫煙に関しては自由なため、労務管理上は有効だったものの、実際の卒煙に結び付く対策にはなっていない状況であり、卒煙の難しさを感じました。

その他の喫煙対策として、健康保険組合と連携して卒煙にチャレンジする人を募り、支援していくキャンペーンに取り組んだこともありました。
喫煙している役員のポジションの人に参加してもらうことが従業員にとっても刺激になると考え、何とか話を聞いてもらい参加してもらいましたが、途中で脱落し達成できなかったこともありました。

また、社長本人が喫煙者だったケースでは、人事課と保健師仲間で話し合い、健康被害から生じる生産性の低下を防ぐべく、そして何よりも従業員の健康を想ってもらえるよう「卒煙に向けて取り組んでください」と社長に話をしたものの、残念ながら色良い返事はもらえませんでした。

喫煙者の割合は16%。喫煙所閉鎖や重症化予防としても今後の喫煙者割合に注目

令和元年の「国民健康・栄養調査」によると、習慣的に喫煙している者の割合は 16.7%で、内訳は男性 27.1%、女性 7.6%でした。
この10年間でみると、いずれも有意に減少しています。
また、昨今の新型コロナウイルス感染症の面からみても、WHOが2020年4月29日に招集した専門家によるレビューにおいて、喫煙者は非喫煙者と比較して新型コロナウイルス感染で重症となる可能性が高いことが明らかになったと報告されています。

これまで従業員に聞くと「子どもができた」など家族をきっかけに喫煙をやめたという人が多いように感じていましたが、最近はこれに加えて新型コロナウイルス感染症パンデミックを機に卒煙に取り組もうと思った方もいるのではないでしょうか。
国立がん研究センターのアンケート結果では、喫煙所の閉鎖や使用停止について58.3%が賛成しており、ショッピングモールなどでは、新型コロナウイルス感染症予防のために喫煙所が閉鎖されている場所がほとんどです。

新型コロナウイルス感染症の重症化予防としても、喫煙環境といった意味でも、卒煙に取り組むベストなタイミングといえるかもしれません。
前述の会社でも、このタイミングで卒煙のお話をしていれば、当時の社長からも、もっと前向きな返事がもらえたかもしれません。

禁煙支援は思いやりをもった雰囲気づくりで

会社組織で喫煙対策に取り組む場合、経営トップ層、あるいは健康管理業務に携わる従業員の中に喫煙者がいると、施策を進めづらい雰囲気になってしまうことがあります。
喫煙する従業員が「悪」で、もともと喫煙していない従業員や禁煙に取り組もうとしている従業員が「善」という「吸う人VS吸わない人」の対立構造を生まないような雰囲気作りも必要です。

筆者の経験ではうまくいかないことが多かった喫煙対策ですが、ひょんなことから「思いやりがある!配慮がされている!」と感じた出来事がありました。
ロッカーを複数人の従業員が共有し使っている会社で、喫煙者と非喫煙の従業員が同じロッカーを共有しないように、うまくメンバーを分けながら利用していた事例です。
ロッカーのメンバー分けは会社のルールではありませんが、思いやりがある受動喫煙対策の一つだと感じました。

北風と太陽の話のように、やめさせようと健康影響について訴えるようなビュービュー風を吹かせるだけではなく、太陽のように暖かく誰かへの思いやりの気持ちを持った時にスムーズに進むことが多いように感じます。
またそれは喫煙対策に限ったことではなく、きっとそのような雰囲気であれば、仕事へも良い影響となるでしょう。

<参考>
・ 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」
・ 国立研究開発法人国立がん研究センター「新型コロナウイルスとたばこに関するアンケート調査の報告書公表」

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保健師 さわこ

投稿者プロフィール

学校卒業後、行政保健師に従事。主に母子保健の分野で、新生児訪問や子ども発達相談などを経験。その後、看護技術も習得したいと考え、病棟、健診機関で看護師業務に携わる。現在は、「日本の元気は働く世代から!」という想いで産業保健の分野に従事。
行政、医療機関、企業、働くフィールドは違うものの、共通して人のためになる仕事ができることを嬉しく思っています。産業保健師として働く中での出来事、実際のところを皆さんと共有したいと思います。

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