産業医は「社員の職場復帰」にいかにかかわるべきか

休職者とストレスチェック制度

昨年12月からストレスチェック制度が開始されました。
この制度は、今の日本においてメンタル面に課題を抱える労働者が多く、休職などを未然に防ぐことで経済的損失を防ごうといった考えから施行にいたったという経緯があります。

内閣府の発表した数字によると、休職者1人当たりに追加的にかかるコストは、約420万円といわれています。仮に100人の休職者がいた場合4億2000万円の損失です。これを日本全体で考えると、途方もない数字になります。

しかし、ストレスチェック制度の効果が現れるのは、実際には数年先になるでしょう。
独立行政法人労務政策研究・研修機構の調査によると、企業の約半数に、過去3年間で1人以上の休職者がいたことがわかっています。
(「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」http://www.jil.go.jp/press/documents/20130624.pdf

今後、企業は、ストレスチェック制度を上手に運用しながら、休職者を減らす努力をしていくべきでしょう。しかし、実際に社内で休職者がでてしまった場合、何を判断材料に職場復帰させればよいでしょうか? そのポイントを以下に記します。

職場復帰の判断材料

傷病等で一度休職した従業員が職場復帰する際には、本人の職場復帰の意思確認がまず必要です。
その際には、対象となる従業員を診察した主治医が作成した『傷病の治癒による職場復帰に関しての診断書』も合わせて確認するようにします。
また、産業医など、会社が指定する医師と面談し、その意見も、職場復帰を判断する材料となってきます。

対象となる従業員は、診察する医師の選択は自由にできますが、職場復帰の可否の判断は、最終的には会社が行うものですから、会社として最終的な判断の確信を得るために会社が指定する医師の意見が必要だと判断した場合には、従業員はその指示に従い面談、または受診する必要があります。
このことについては、大建工業事件(大阪地裁平成15年4月16日判決労判849号35頁等)等においても、その妥当性が示されています。

※当判決においては、会社が復職に必要な対象従業員の傷病治癒の認定に、労働者は診断書等の提出などによって協力する義務があると考えられており、会社が必要とする診断書を提出しない労働者の解雇はやむを得ないとしています。

産業医による判断

産業医は、従業員の職場復帰の支援も職務の一つであると考えられています。
前述の対象となる従業員との面談もそうですが、その他にも主治医の意見(診断書の内容)の把握、職場復帰時の従業員の状態、環境等に関する情報の収集と評価、就労条件・作業環境等に関する助言・指導、職場復帰後の経過観察等が職務となります。

主治医が従業員との診察においてのみ復職の可否の診断をすることと異なり、産業医は、従業員の職場復帰に関して、より多くの情報を収集して、職場復帰の判断をすることが可能といえます。

従業員の職場復帰においては、会社としては「本当に職場復帰させることで、安全配慮義務を果たせるのか」という点についても非常に悩まれることでしょう。
休職者の有無に関わらず、休職した従業員が職場復帰する際の環境について、労働安全衛生の知識が豊富な産業医の協力のもとに、事前に整備しておくことが必要です。

職場復帰支援の取り組み事例が厚生労働省運営のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」(http://kokoro.mhlw.go.jp/case/hukki/index.html)に紹介されていますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。

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