新型コロナがもたらす影響~「受診控え」による生活習慣病悪化のリスク~

新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、「病院」への考え方が変わりつつあります。
新型コロナウイルス感染症や感染予防方法の徹底などへの関心が高まる一方で、生活習慣病などへの治療に対しては「病院へ行くと感染するのではないかと不安」など、感染リスク軽減の観点から病院への「受診控え」が生じているのです。
必要な治療を中断したり、少し調子が悪くても我慢することで早期発見・早期治療を遅らせてしまったりと、健康への弊害が生じる可能性があります。
企業としても、社員が健康診断受診後の二次健診や精密検査や再検査など医師の指示を遵守せず、そのまま病気を放置してしまうリスクを抱えることになります。
特に、安全配慮義務という点からも、社員の健康管理に関して気がかりなのではないでしょうか。
今回は、新型コロナウイルス感染症の二次被害ともいえる「受診控え」など、健康リスクをわかりやすく解説します。

生活習慣病患者の「受診控え」の背景と重症化のリスク

血糖コントロールなどの重要性を情報発信している血糖トレンド委員会では、2020年6月8日~9日にかけて、生活習慣病患者(高血圧、2型糖尿病、高脂血症)を対象に、通院回数の変化や、その理由についてオンラインでアンケート調査を行いました。
その結果、定期的な通院を必要とする生活習慣病患者の2割が本来は必要な通院を自粛したことがわかりました。
通院が減った理由として、8割が「新型コロナ感染予防のため」、3割が「自主的に外出自粛をしていたため」と回答しています。
生活習慣病は、健康な人よりも新型コロナウイルスを重症化させるリスクも高いとされています。
糖尿病などの生活習慣病自体が、新型コロナウイルスへの感染率そのものに大きな影響を与えるわけではないと考えられていますが、重症化し入院した患者の3割が糖尿病に罹患していたということが報告されています。
また、新型コロナウイルスは血管を傷つけ、血栓を作ることもわかってきています。
高血圧や高脂血症のような血管に負担がかかっていたり、血液がどろどろの状態を引き起こす病気は、血栓、脳梗塞や肺梗塞などにより死亡するなどのリスクがあります。
やはりコロナ禍でも、生活習慣病を放っておくことは大変危険です。

在宅勤務は更に生活習慣病を悪化させるリスクが潜んでる!

在宅勤務や外出自粛の生活をしていると、運動量がめっきり減ったという声をよく聞きます。
アフターコロナにおける在宅勤務や外出自粛は、ビフォアコロナの生活習慣を以下のように大きく変えました。

・ 出社している時は、お菓子やジュース等に手を出すことはなかったが、家にいるとついつい食べてしまう
・ 通勤や営業などでよく歩いていたが、在宅勤務だと歩く機会もなければ長時間座椅子に座っている状態である
・ コロナストレスや気分転換ができないことにより暴飲暴食が増えた
・ オンライン飲みが楽しくてついつい飲みすぎてしまう

運動不足、食べ過ぎてしまう食生活、睡眠不足等の生活習慣の偏りや乱れは、肥満の原因となったり、生活習慣病の悪化や重症化の進行に関わります。
在宅勤務や外出自粛で注目されがちな「メンタルヘルス」「コロナ疲れ」等の言葉がありますが、新型コロナウイルスに立ち向かう中で、私たちは、心だけでなく体の健康管理も欠かせません。

社員の健康管理や受診勧奨方法は?

人事担当者や衛生管理者として、一番気になるのは、「在宅勤務中の社員の健康管理」、「健康診断後の再受診、二次健診率の低下」といった点でしょう。
以下では、企業で社員向けにできる健康管理方法、受診勧奨方法をご紹介します。

・ オンラインでの健康管理ツールの利用

前述のとおり、血糖トレンド委員会のアンケートからは、生活習慣病患者の受診控えが生じていることがわかりました。
また、同アンケート結果で興味深いのは、生活習慣病患者の約6割が自粛期間中に普段よりも「自分の健康を意識した」と回答している点です。
さらに、自己管理するサポートツールとして、スマートウォッチやスマートフォンアプリでの健康管理ツールに関して関心を抱くのが約半数。
社員の健康管理として、「血圧管理」「睡眠記録」「歩数などの運動量記録」など、スマートフォンのアプリやオンラインでの健康管理ツールを推奨、利用してみるのも対策の一つですね。

・ まずは知るところから~リモート型セミナーで社員ひとりひとりに健康管理意識向上~

健診後の再受診や二次健診を放置する人の多くが、病気を「自分事」ではなく「他人事」として捉える傾向にあります。
健診結果で体重や血圧、LDLコレステロールの数値が悪くても、「症状が出ていない」「今は健康に過ごせている」と思ってしまえば、なかなか次なる行動にはつながりません。
以下3点について、社員向けの対策を行えていますか?

・ 健診結果の数値の意味を理解する
・ この数値がどのようになったら、どういうことが起きるか見立てられる
・ 放置してはいけないと気づく

一人ひとりに説明をし、理解を促すことがもちろん効果的ですが、そのような時間を確保するのは難しく、個別対応ゆえに手間がかかり、なかなかできない企業も多いでしょう。
そこでおすすめなのが、社員に対する健康教育を行い、社員の健康意識を高めることです。
健康診断や二次健診の受診率の向上にもつながります。

・ 全社員に対する産業医や保健師などの産業保健スタッフによるリモートでの健康講話やセミナー
・ 社内報等での最新健康情報の定期的な発信
・ 生活習慣病リスク社員への個別健康教育

私個人としましては、「このまま放置していてはまずい」と思ってもらうことも重要ですが、「もっと健康でいたい」という思いを引き出すことも保健指導として重要なポイントだと思っています。
新型コロナウイルス感染症に関心が高まる中、「健康管理」という面からも興味関心が高まっている状況です。
しかし、一方で、外出自粛や新型コロナウイルスの情報が蔓延する中、将来への不安も大きく、感染予防行動は徹底しようと思っているが改めて自分自身の生活習慣を見直す余裕がない、という状況でもあります。
健康管理や感染対策に意識が向いている今だからこそ、社員への健康教育を積極的に行いましょう。

<参考>
・ 血糖トレンド委員会「新型コロナ流行による生活習慣病患者への影響に関する調査」
・ Richardson S、Hirsch JS、Narasimhan M「Presenting Characteristics, Comorbidities, and Outcomes Among 5700 Patients Hospitalized With COVID-19 in the New York City Area」(JAMA Network、2020年4月22日)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

原田 佑紀子株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

大学病院やクリニックで看護師として、さまざまな疾患をもつ働き盛りの年代の患者様を間近で看護させていただくなかで、からだとこころは密接に関係している、と強く実感しました。
「病気」に目を向けるだけではなく、病気になることで揺れ動くこころや生活を支え、健康に働くことをサポートする役割になりたいという思いから、産業保健師として活動しています。皆さんの「知りたい」最新の産業保健の情報を伝えられたらと思います!
【保有資格】看護師、保健師、人間ドック健診情報管理指導士、睡眠健康指導士上級
【詳しいプロフィールを見る】
【ドクタートラストの保健師サービスへのお問い合わせはこちら】
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

この著者の最新の記事

関連記事

解説動画つき記事

  1. 【動画あり】休職者、在宅勤務者をサポート「アンリケアサービス」~その魅力と導入の流れ~

一目置かれる健康知識

  1. 「良い二度寝」と「悪い二度寝」がある?すっきり目覚めるポイントは20分
ページ上部へ戻る