困っていませんか?「誰かがやってくれるよね」という心理

こんにちは、産業カウンセラーの冨田です。

社会は多様化が進み、テレワークの導入など働き方についても変化がはじまってきていますね。
とはいえ、仕事をする上では社員同士の協力が欠かせません。

今日はその「協力」に関して職場で起こりがちな現象ついてのお話です。

こんな場面、ありませんか?

ケース①

Aさん「最近乾燥が酷いので、加湿器を導入しました! みなさん毎日手入れをして、使用してくださいね」

Bさん「(毎日手入れか~、でも誰もやってないし、別にいいよね)」
Cさん「(頼まれたらやろう)」

~数日後~

Aさん「あれ…給水できていない、カビが生えてる。毎日手入れをしてって言ったのに…」

ケース②

Aさん「今日皆さん手伝いをお願いします。この書類を1,000部封詰めしてください」
Bさん「(みんなで1,000部か、これだけ人数いるし、ゆっくりやろう)」
Cさん「(みんなゆっくりやってるし、そんなに急がなくてもいいよね)」

~その後~

Aさん「あれ、BさんCさん作業のスピードが遅いな…。いつもはもっとテキパキやっているのに」

さて、2つのケースをご紹介しましたが、皆さん、いずれの立場も思い当たる部分はありませんか?
1も2も、きちんと仕事の依頼をしているのですが、仕事を受ける側はなんだかとても他人事。

いったいなぜでしょう?

1と2で共通しているのが、一人から多数の人へ「みなさんよろしく」と仕事の依頼をしていますよね。
実はこれが、みなさんを「当事者」ではなく、「傍観者」へと変えてしまっているのです。
集団心理の一つに、周囲にいる人が少ないほど援助行動を起こしやすく、周囲の人が多いほど援助行動が抑制される傾向があることが立証されており、これを傍観者効果といいます。
多くの人が知らず知らずのうちに、この傍観者効果の影響を受けてしまっているのです。

ジョン・ダーリーとビブ・ラタネの実験

1964年にニューヨーク州で起きた「キティ・ジェノヴィーズ事件」を知っていますか?
被害女性のキティ・ジェノヴィーズが、暴漢に襲われ刺殺された事件です。
事件発生からキティが殺されるまでに約30分ほど、38名の目撃者がいたにも拘らず、通報や救助に向かった人は0名でした。
他人への無関心さが報道されるなか、心理学者のジョン・ダーリーとビブ・ラタネは、「多くの目撃者がいたからこそ、誰も彼女を助けなかったのではないか」という仮説を立て、実験を行いました。

実験では、2名、3名、6名のグループを作り、各グループから1名が突然苦しみ出して助けを求めた場合、人数によって救助行為に差が出るのかを検証。
その結果は、「人数か少ないほど、迅速に救助行為を行った」というもの。

このことから、ダーリーとラタネは仮説のとおり、キティ・ジェノヴィーズ事件は多くの人が気づいた=他の人が助けるだろうと感じてしまったからこそ、誰も彼女を助けなかったのだ、と傍観者効果を主張しました。
傍観者効果には、3つのタイプがあります。

「責任の分散」…自分がしなくても誰かが行動するだろうと責任や非難を分散したいという考え
⇒「他の人もやってないから、みんな悪い」

「聴衆抑制」…行動することで非難されることを避けたいという考え
⇒「余計なことをした、おせっかいだと思われたくない」

「多元的無知」…他の人がやらないということは重要性・緊急性がないと思う考え
⇒「誰もやってないし、大事なことだとは思わなかった」

最初のケース①は「責任の分散」、ケース②は「多元的無知」が当てはまりますね。
人は協力して何かを行う際、人数が多ければ多いほど、少人数で任された時や個人に役割分担で任された時よりも、手抜きが生じやすい傾向にあると言われています。

どうすればいいのか?

自分がやらなければいけない、という当事者感覚を持たせることが大切です。
仕事を任せる時、ケース①では「みなさんよろしく」ではなく「月曜日はBさん」「火曜日はCさん」と当番や役割を明確にして、協力を仰ぐことが必要です。
ケース②も、みんなで1,000部ではなく、一人ひとりにノルマとして100部ずつ依頼するなど、傍観者効果を防いでいかなければいけません。
キティ・ジェノヴィーズ事件も、もしキティ本人や、目撃者の誰かが「あなたは救急車を呼んで」「あなたは警察を」「あなたは応急手当を」と、声を上げることができたなら、結果は違っていたかもしれません。
「みんな(全員)」や「誰か」という言葉をよく使っている人は、気をつけてみてください。

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冨田さゆり株式会社ドクタートラスト 産業カウンセラー

投稿者プロフィール

ドクタートラストに入社して6年目、多くの民間企業・官公庁の健康管理に関わってきました。産業カウンセラーの資格を取得し、専門知識を深める日々です。対企業、対従業員、健康に働くためのアプローチは多種多様。各々の特性に合わせたアドバイスを心掛けています!
【保有資格】産業カウンセラー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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