ラベリング理論を利用して新人の能力を引き出そう!
- 2018/7/14
- 認知行動療法
みなさんいかがお過ごしでしょうか?
精神保健福祉士の笹井です。
最近はすっかり暑くなりましたね。
新入社員も部署に配属されて緊張がほぐれてきて、いろいろなボロが出てくる……そんな時期でもあります。
叱るのも褒めるのも先輩の仕事だけど、ただでさえ業務が多いのに、教育まで手が回るかい! と嘆く声が皆さんの職場から聞こえてきます。
一人前の社会人を育てるのはとても時間と労力が必要ですよね。
さて、一人前にするためには、さまざまな教育の方法があるとは思いますが、何をすればいいのでしょうか?
働くみなさんの生活にお役立ていただく産業保健新聞、今日のテーマは「ラベリング理論を利用して新人の能力を引き出そう!」です。
ラベリング理論とは?
ラベリング理論とは、1960年代に社会学者ハワード・S・ベッカーによって提唱された、人の行動形成についての概念です。
社会集団はこれを犯せば逸脱となるような規則(ルール)を設け、それを特定の人々に適用して彼らにアウトサイダーのレッテルを貼ることによって逸脱を生み出すのである
(著書『アウトサイダーズ』より)
その人が逸脱しているかどうかは、周囲の人がレッテルを貼って決定する、レッテルを貼られた人は、そのレッテルに沿うように行動を形成していく、という内容です。
少しわかりにくいので、ここで例をあげましょう。
① たとえば、窃盗をした人がいたとします。
② その周囲の人々は「この人は犯罪者だ。絶対悪い人だ」とレッテルを貼ります。
③ 罪を犯した人は、周囲にそのように扱われることで、レッテルを意識してしまい、自尊心をなくしたり、自暴自棄になったりします。
④ 次第にその人は、自らが犯罪者であるという自覚を持つようになります。
⑤ 問題行動を起こすことに罪の意識が低くなり、犯罪に手を染めやすくなって、悪人になっていきます。
ラベリング理論では、行動形成は周囲の期待によってなされると示唆しています。
つまり、周囲の人がその人へ適切なレッテル貼りを行ってあげれば、その人が適切な方向へ成長していくことが望めるのです。
周囲の人が「Aさんは几帳面である」と認識すれば、Aさんは几帳面になるのです。
人はなぜレッテルを貼るのでしょうか?
動物は未知のもの、理解が及ばないものには恐怖や不安を抱きます。
未知なものは、危険である可能性があります。
人に慣れているサルは餌をねだりますが、野生のサルは人に恐怖を覚えて近づこうとしません。
認識はしているけれども、理解ができないからです。
人間でも同様です。
幽霊が恐ろしいのは、正体不明で、認識もあやふやであるし、理解を超えた存在であるためです。
人や物事の構造やしくみ、内容は複雑で一言では言い表せないものです。
家では物を散らかしっぱなしなのに、会社ではきちんと整理整頓できている、なんて人いますよね。
人はいろんな性格や側面を併せ持っています。
人は矛盾だらけで、一様には理解ができないものなのです。
ですが、それでは人の心理は安心ができません。
人は思考を簡単にして、未知なものを既知のものに変換しようとするのです。
そのため「この人は~な人だから」と理解して分別しようとするのです。
日本人でいうと血液型性格判断や県民性性格判断がそれにあたります。
さて、日本人の4割がA型ですが、そんなに几帳面でまじめな人ばかりでしょうか?
県民性で言うと、京都人は嫌味を遠回しに言うようなイケズな人しか居ないのでしょうか?
そんなことはありません、A型にもズボラな人は居ますし、京都人にも本音でトークをする優しい人は居ます。
ここで意識したいことは、周囲の人が貼っている「レッテル」はその人の一部分しか見ていないということです。
どんなラベルを付けよう
さて、本題に戻りましょう。
では、ラベリング理論を応用して新人の能力を引き出すにはどのようにすればよいのでしょうか?
1. ネガティブなレッテルを貼らないこと
「できない子」「ダメな子」「~が苦手な子」というレッテルは、とても周囲の人に浸透しやすく、言われた本人も意識しやすいので止めたほうがいいでしょう。
「~ができていない」という評価と「~ができていない子」というレッテルは、一緒にしてはいけません。
「~な子」や「~な人」といった、レッテルになり易い言い方は避けましょう。
一度レッテルを貼ってしまうと、できるようになった後にも本人が意識をして、自信を持てなかったり不安を覚えたりします。
新人はできなくて当たり前なのです。
「~が今はできていない、~はできている。~は理解している」などの評価にすると、課題が明確になり評価として本人は自覚できるようになります。
例)間違った報告書を作成してしまった
×:報告書の作成で間違う子
〇:計算が間違っていた、しかし宛名や報告内容など記入すべきところは合っている、間違ったことは反省しており、計算を見直すよう自分でも意識している
2. ポジティブなレッテルを貼る
誰しも褒められることは嬉しく感じます。
「あなたは~が得意なんだね」「あなたはきちんとチェックができる人なんだね」など、できたことはいいレッテルとして返してあげましょう。
その人が得意としていることは伸ばし、プロフェッショナルとなるように仕向けていくのです。
ただ、無理やり褒めることはよくありません。
本人にとってはプレッシャーになり、褒められたことに対して失敗してはならないという強迫観念が生まれるからです。
あくまでも、過度な期待を寄せないように、その人が出来たこと、良いなと思ったことをフィードバックしてあげましょう。
例)一度やり方を教えたエクセルの操作方法を一度でできた
〇:あなたはエクセルが得意なんだね、呑み込みが早いね
以上のことを念頭に置いて新人さんに接してみましょう。
「あの人は~な人だよ」と周囲に漏らす一言を考えてあげられれば一番いいですね。
教育は難しい
人を育てるのはとても難しいことです。
その人の意欲やタイミング、性格、周囲のサポートなどさまざまな要素が組み合わさって、その人の成長を助けていきます。
今回取り上げたラベリングは、周囲のサポートに当たります。
人を変えるにはまず自分から。教育に悩まれている方々に少しでもお役立ていただければと思います。
それではみなさん、明るく楽しく健康に、またお会いしましょう。