企業の災害・リスク対策、現場の実態は? BCP策定率39.5%、熱中症・備蓄体制の課題も

2025年8月、東京商工会議所が会員企業を対象に「災害・リスク対策アンケート」を実施し、調査結果を発表しました。地震や水害、感染症、サイバー攻撃など、企業を取り巻くリスクはますます多様化しています。
調査から、多くの企業が対策の必要性は感じているものの、実際の取り組みには課題が多いことが浮き彫りになりました。

BCP(事業継続計画)策定の現状

BCP(事業継続計画)とは、地震や水害などの災害やトラブルが起きた際に、企業の業務を止めずに続けるための計画です。
今回の調査では、BCPを実際に策定している企業は全体の39.5%で、逆にBCPと防災計画どちらも作成していない企業が27.1%もありました。
策定できていない理由として多くの企業が挙げたのは3点です。

– 人員に余裕がない(58.0%)
– 時間に余裕がない(52.8%)
– 具体的な対策方法が分からない(44.2%)

特に中小企業では、BCP実践経験者がいないため「どう運営すればよいか分からない」ことがBCPの実行を遅らせる大きな要因になっています。
そこで注目されるのがオールハザード型BCPです。
これは地震や水害など特定のリスクだけに備えるのではなく、災害による経営資源の損害(社員の出勤停止や調達不足など)を想定する方法です。
どのような災害やトラブルに対してもあらかじめ経営目線で優先順位を決めておけるため、会社経営者が実施しやすい方法となっています。
東京商工会議所では、中小企業向けにオールハザード型BCP策定ガイドも発行されています。
会社や社員を守るためにも、将来的なリスクに備えてさまざまな機関のサポートを受けながら早めに行動していくことが大切です。

熱中症対策の現状

2025年6月から熱中症対策が義務化されました。WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の環境で、1時間以上または1日4時間を超える作業を行う場合が対象となっています。
義務化の背景に、職場での熱中症による死傷者数が急増していることが挙げられます。厚生労働省によると2024年の死傷者数は2021年の約2倍になっており、各企業の早急な対策が求められています。
その中で、企業の熱中症対策の取り組み状況は以下の通りです。

– クールビズの実施:69.9%
– 従業員への水分・塩分補給品、冷却商品等の提供:53.6%
– 作業場所の整備(冷房設備の設置等):52.0%

クールビズは7割の企業で実施されているものの、水分補給や作業環境の整備は半数程度でまだまだ十分とはいえない状況です。
特に運送業界では、2024年問題でトラックの待機時間短縮が求められる中、熱中症対策まで手が回らないという声も聞かれます。
熱中症の死傷者数が多い建設業や製造業では、作業内容によって屋外での長時間作業が避けられません。
そのため画一的な対策ではなく、業界や現場に合わせた対策が必要です。
ヤマト運輸株式会社ではファン付きベストやWBGT(暑さ指数)測定器、ウェアラブルデバイスを導入することで従業員それぞれが対策できる環境を整えています。
行政でも支援制度が充実しており、厚生労働省では高齢労働者向けにエイジフレンドリー補助金という制度があるため、うまく活用したいところです。

今回の調査では企業の備蓄体制の状況も報告しています。
従業員向けに3日分以上の備蓄を整えている企業は半数程度で、備蓄をする上での負担項目として保管スペースの確保(74.1%)、備蓄品の管理(61.1%)、購入・買替費用の確保(46.5%)が挙がりました。
特に小規模事業者では個別で備蓄を整えるのは難しく、1つの企業では対応に限界があることがわかります。
そのため、地域や行政との連携がこれから重要になっていくと考えられます。

まとめ

今回の調査では企業の災害・リスク対策の現状と課題が明らかになりました。
特に企業は必要性を感じながらも、実践にまで踏み込めていない状況が見られます。
BCPセミナーを受講してみることや備蓄品リストを確認してみるなど、少しずつ行動することが重要です。

<参考>
・ 東京商工会議所「『会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート』2025年調査結果」
・ 東京商工会議所「中小企業向けオールハザード型BCP策定ガイド」
・ 厚生労働省「令和6年『職場における熱中症による死傷災害の発生状況』(確定値)を公表します」
・ ヤマト運輸株式会社「熱中症対策として「ファン付きベスト」の導入を拡大」
・ 厚生労働省「エイジフレンドリー補助金」

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畑中勇人株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

大学卒業後、化学メーカーに勤務。長時間労働をきっかけに働く環境や健康に興味を持ち、ドクタートラストに入社しました。
これまでの経験を活かしながら、皆さまに役立つ情報を発信していきます。

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