努力義務という考え方
- 2018/11/8
- 労働安全衛生法
労働安全衛生法で「~努めなければならない」という表現を目にすることはしばしばありますよね。
いわゆる「努力義務」というものです。
ところでこの努力義務、どういう意味が込められているものかご存じでしょうか。
やってもいいし、やらなくてもいいもの?
本日は努力義務の考え方について、考えていきます。
どんな努力義務があるのか
まずは、努力義務が具体的に条文内でどのように登場するかを見てみましょう。
<労働安全衛生法>
第十三条の二 事業者は、前条第一項の事業場以外の事業場については、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師その他厚生労働省令で定める者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならない。
上記13条の2にある“前条第一項”は、「一定の要件を満たした事業場は産業医を選任し、健康管理その他を行わせなければならない」という内容です。
50名未満の事業場は産業医を選任しないが、一定のスキルを持つ医師によって健康管理の一部か全部を行わせることを努力義務として定めているということになります。
さて、ここからが本題ですが、努力義務ということは事業者が選択してその対応を決めてしまってもよいのでしょうか?
最善の対応を考えてみる
今回例として挙げた内容は、労働者の健康管理にかかわるところとなりますが、労働者が20名程度の特殊な溶剤を扱う事業場について考えてみましょう。
このような事業場で健康管理を行おうとすると、専門的な知識が必要となり、企業内だけでの対応では不十分な可能性ことがあります。
また、実際に健康上の問題が生じた場合には、企業の安全配慮義務を問われる可能性があるでしょう。
扱っている溶剤を鑑みると、労働者の健康、安全を守るためには、20名程度の事業場では産業医の選任義務はないが、効果的な健康管理を行うために、一定のスキルを持つ医師による健康管理が必要と感じられると思います。
また、ストレスチェックにおいては、集団分析が努力義務とされており、この根拠について厚生労働省の報告書では、以下のように記載されています。
ウ 集団的な分析と職場環境改善
(ア)集団的な分析の実施
(中略)
この場合の努力義務は、集団的分析の実施の必要性や緊急性が低いことを意味す
るものではなく、事業者は、職場のストレスの状況その他の職場環境の状況から、改
善の必要性が認められる場合には、集団的分析を実施し、その結果を踏まえて必要な
対応を行うことが自ずと求められることに留意するべきであること。<出所>厚生労働省労働基準局安全衛生部「労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度に関する検討会報告書」13頁
つまり、必要に応じてやるべきということ
ここまでの要点をまとめてみると、努力義務というものは、やろうとする努力を求めているのではなく、「状況に応じて行うべき内容」であるといえるでしょう。
法律上努力義務となるものには、強制できないもの、猶予が必要なものが多く存在します。
前者であれば、強制することで他方の権利を侵害するもの、または理念や方向性を示し、当会社の努力を促すものがあり、後者では社会事情から急な変化を起こすことができないものがあります。
また、努力義務を履行していないからと言って、それに対しての法的な制裁はありません。
しかし、労働安全衛生法に関して言えば、労働者の健康管理に必要であれば努力義務の内容であっても、積極的に実施をすることが重要です。
小規模な事業場であっても働き方改革が叫ばれる今のご時世、より良い人材の確保のためにも今以上に健康管理へ目を向けてみてはいかがでしょうか。