ハラスメント対策、機能していますか?|12月の撲滅月間に見直す3つのポイント
- 2025/12/2
- ハラスメント

みなさんはハラスメントと聞いて何を思い浮かべますか?
パワハラ、セクハラ、マタハラ、カスハラに加え、最近は、アカハラ(アカデミック・ハラスメント)、アルハラ(アルコール・ハラスメント)、ジタハラ(時短ハラスメント)、ワクハラ(ワクチンハラスメント)、ジェンハラ(ジェンダーハラスメント)、ハラハラ(ハラスメントハラスメント)なんかもあるそうです。
毎年12月、厚生労働省では「職場のハラスメント撲滅月間」と定め、事業主・人事・労務担当者・働く人々に向けて、ハラスメント防止の必要性と具体的な取組みを喚起しています。
今年も「職場のハラスメント撲滅月間」を契機に、改めて「何が起きているか」「何をできるか」「どう進めるか」を整理しておきましょう。
ハラスメント対策を取りまく状況
2020年の改正労働施策総合推進法・男女雇用機会均等法等により、職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ)などへの対策が、事業主に義務付けられました(パワハラ対策については、中小企業は2022年4月1日から義務化)。
今後(2026年中を目途)は、改正労働施策総合推進法に基づき、カスタマーハラスメント(顧客等からのハラスメント)対策が、また、改正男女雇用機会均等法に基づき、求職者等に対するセクシュアルハラスメント(就活セクハラ)対策が、それぞれ事業主に義務として課せられることになり、対策対象が拡大しています。
このような法的背景を持つ中で、12月という時期に「集中して啓発・点検を行う」ことは、年間評価や繁忙期によるストレス増大、および新年度に向けた体制整備の総点検として、組織にとって非常に有効です。
なぜ“いま”見直すべきか:注目すべき3つのポイント
1. 対策していても機能していないケースが散見される
多くの企業で「ハラスメント防止の相談窓口を設置」「研修を実施」という形が取られていますが、実効性・運用状況が十分とは言えず、ハラスメント発生数に大きな改善が見られないとの指摘もあります。
つまり「制度だけある」では不十分で、「実際に相談がしやすいか」「事案発生時に迅速かつ適切に対応されているか」が問われています。これは、厚生労働省の指針でも明確に事業主の責務として求められている点です。
2. 働き方の多様化とともに見えないハラスメントが増加傾向
テレワーク、フレックス制、顧客対応がデジタル化する中で、「どこが境界か分からない」「誰が監視できるか分からない」形態が増えており、ハラスメントの発生・把握が難しくなっています。
例:チャットやメールにおける文字情報だけの嫌がらせ(テキストハラスメント)、オンライン飲み会での不適切発言、顧客からのSNSやレビューサイトを通じたオンライン上のクレーム・嫌がらせ(デジタルカスハラ)。
3. 組織文化・リーダーシップの欠如が温床になっている
上司・先輩による“無自覚な強圧的コミュニケーション”、組織の「忙しいから仕方ない」「慣習だからこのまま」などの文化が、ハラスメントを許容する土壌となっています。
経営層・管理職の意識改革は、制度以上に組織の生産性と心理的安全性の確保のために不可欠です。
12月に実施すべき3ステップチェックリスト
1. 自社の状況を正しく可視化すること(現状の把握と評価)
まず、社内に設けているハラスメント相談窓口の運用状況、相談実績、対応のスピード、研修の受講率など、現在の防止策がどの程度機能しているかを客観的に確認します。
「制度はあるけれど実際には使われていない」「相談件数ゼロは安心ではなく、むしろ“声を上げられない雰囲気”の現れかもしれない」など、多くの職場で見落とされがちな隠れた課題を洗い出す作業です。
年末は振り返りに適したタイミングのため、12月に必ずこの機能点検と棚卸しを行うことが重要です。
2. 職場全体の意識を再点検すること(無自覚なハラスメントの防止)
管理職・一般社員を含め、ハラスメントの定義や例、特にグレーゾーンとなりやすい言動について改めて周知・啓発します。
「これは冗談のつもりだった」「忙しい時期は多少強く言うのは仕方ない」など、本人に悪気がなくてもハラスメントに該当するケースは少なくありません。
12月は特に繁忙期でコミュニケーションが荒れやすくなるため、無自覚な加害を防ぐために、短時間かつ集中的な再教育・リマインドが効果的です。
3. 仕組みの運用を見直し、実効性を改善すること(制度の運用化)
相談窓口へのアクセス方法がわかりにくくないか、匿名での相談が可能か、相談後のフォロー体制が機能しているか、事案発生時の再発防止策が現場に根付いているかなど、実務レベルの改善点を見つめ直します。
制度が「設置して終わり」とならないよう、実際に使われるための具体的な工夫が必要です。
また、管理職が相談しやすい雰囲気をつくれているか、顧客対応部門でのカスタマーハラスメント対策が整っているかなど、「現場の肌感覚」で点検する視点も欠かせません。
経営者・人事へのメッセージ
「ハラスメント対策」は、単なるコンプライアンスや法令遵守の問題に留まりません。
企業の人材確保、定着率向上、そしてブランド価値そのものに直結する、経営戦略上の重要課題です。
12月を「制度の実効性を見直す月」と明確に位置づけましょう。
年末年始の慌ただしさの中でこそ、「誰もが安心し、相互に尊重される職場」の基盤設計を改めて徹底してください。
特に、管理職のコミュニケーションスキル向上、匿名性の高い相談体制の構築、および顧客対応部門におけるカスタマーハラスメント対策は、今後リスクが顕在化する可能性が高い最重要領域として、見過ごさずに対応すべきです。
世の中にはさまざまなハラスメントが存在しますが、12月の「職場のハラスメント撲滅月間」は、単なる啓発のためのイベントではなく、制度の実効化・文化の変革を図る重要なタイミングです。
いま一度、制度・運用・日常の言動が実質的に機能しているかを問い直し、1月以降も継続可能な仕組みとして整えることで、組織としての信頼性・持続可能性を高めていきましょう。
<参考>
・ 厚生労働省「12月は『職場のハラスメント撲滅月間』です」
・ 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セシュアルハラスメント/妊娠・出産等、育児・介護休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」
・ 厚生労働省「令和7年の労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部改正について」















