コロナ禍で急に広がったリモートワーク
COVID-19の世界的感染拡大に伴って急速に広がったリモートワーク。
日本の調査では自殺率の上昇など、経済の停滞やコロナ感染への不安からメンタルヘルスの悪化への影響が懸念されてきました。
その一方、「産業保健新聞」を運営するドクタートラストのストレスチェック結果からは、心身のストレス反応で2019年と大きな差異を認めないという意外な結果が出ました。
この背景には、ストレスチェックの対象となる方は50名以上の企業の労働者であることや、失職していない人となるため、コロナの影響を受けにくいことが考えられます。
しかし、私が保健師として関与している企業の担当者からは、コロナ禍特有のメンタルヘルス対策の問題点が大きく以下の2点で浮かび上がってきています。
① 部下のメンタルヘルス不調を早期発見することが難しい
② 真面目で一人暮らしの孤立感を感じやすい部下が不調となりやすい
今回は、こうしたリモートワーク中のメンタルヘルスに関わる問題に対して、上司としてどう取り組むべきかをわかりやすく解説します。
部下のメンタルヘルス不調に気づきにくい理由
これまで、毎日会社に出社していた状況では部下の細かな変化を感じとることが容易でした。
たとえば、挨拶が減った、仕事の効率が下がった、顔色が優れないなどです。
これらのサイン(事例性と言います)をキャッチした上司が直接話を聞いて、早期発見、早期対応につなげることができました。
しかし、リモートワークでは数時間のオンラインミーティングがあったとしても、ビデオオフにしていたり、ビデオオンの数分のみ気合いを入れて元気に見せかければ不調を隠すことが可能となったため、不調がかなり進んで急に「診断書を提出、休職」というケースも認められるようになったと声を聞きます。
それでは、上司はどのように部下の変調に気づけばいいのか。
簡単な答えはありませんが、いくつかの上手な取り組み例を紹介します。
① 部下とのコミュニケーション手段と頻度を増やす
チャットだけではうまく伝わらないときは電話やビデオ通話を使ってやりとりをされていると思いますが、さらに、社内のさまざまなツールを使って部下とのコミュニケーションの頻度を増やすのがお勧めです。
マネージメントスタイルとしては、もちろん部下の必要性に応じて不要なマイクロマネジメントは避けるべきなのは言うまでもありません。
② 自分からコミュニケーションを取っていく
「報連相」待ちの状態になっていないでしょうか?
特に少しでも心配な部下は積極的に上司から困っていることがないか確認していく姿勢が求められます。
また、完全なリモートワークでは、定期的な1on1をビデオ通話で実施し、顔を見ながら状況を確認することが必要ですし、部分的なリモートワークの場合は、すべての部下と出勤が重なるように気をつけて直接顔色等の様子をみることがポイントです。
特にメンタルヘルス疾患は悪化させないための早期発見が重要なため、2週間は明けないようにコミュニケーションを取っていくのが肝要です(うつ病の診断基準が「2週間続く諸症状」となっており、「継続」している症状をいかに早く見つけて医療につなぐかが重要となります)。
③ コロナ禍で不調となりやすいタイプを知っておく
コロナ禍では一人暮らしの人の孤独感が問題となりました。
リモートワークによって会社に出勤することや、友人と会うこともままならず孤立感、孤独感を深めてメンタルヘルスの不調を来した方も見られました。
部下との面談ではこういった孤独感を抱えていないか聞き取っていくことが重要です。
また、在宅勤務では、生活習慣が乱れやすく睡眠、食事、運動、飲酒面に問題を抱える方も増えました。
生活リズムが整えられているか、休日はしっかりリフレッシュできているかなど確認することが望まれます。
部下が体調不良を周りに相談できなかった理由
次に、部下の不調を早期発見するために重要な上司の「気づき」の他に、何故部下は早めに体調不良を周りに相談することができなかったのかを「個人要因」と「組織要因」にわけて考えてみましょう。
① 個人要因
個人要因としては「部下自身も不調に気づけない」、また「不調となるような弱い自分をギリギリまで認められない」といった要因が考えられます。
両者は互いに関連し合ういますが、メンタル不調は徐々に悪化していくことも多く、自分で自分の変調に気づくことが遅れることはよくあります。
また、真面目な方ほど「これくらいで弱音を吐いてはダメ」「もっと頑張れる」と自分を追い詰めがちです。
必要なときには周りにうまく頼れるように、上司としては、体調不良時はしっかりと休むこと、また必要時は他者を頼れるように、相談先の情報提供が大切です。
② 組織要因
組織要因も、個人要因同様に2つあげられます。
それは、「場」を共有することが必須条件であったことと、上司との関係性です。
1つ目は、対面式では回っていた組織がリモートでは回らなくなった場合です。
これは、「場」の共有が必須。
つまり、言語情報以上の「読むべき空気」がたくさんなかったか自分の組織を振り返る良いきっかけとなるでしょう。
日本人は「ハイコンテクスト」と言われますが、部下が読むべき空気がなくなって困るような組織ではなく、チームメンバーみんなが正しく言語化する力をつけ、仕事をこなせるような組織づくりを目指しましょう。
2つ目は、部下が「相談できない」と思うような上司との関係性について考えてみましょう。
あなたは、どんな上司になら自分の体調不良や仕事の回らなさを相談できるでしょうか?
私たちは普段から自分が評価されることに不安を抱いています。
いつも完璧で隙のない上司に対して、そのような相談をするのは勇気がいるかもしれません。
こんな仕事の負担で潰れてしまう自分は役立たずだと評価されるようで怖いという感覚も理解できますよね?
では、どのような上司であれば、相談できますか?
私は、「仕事上の評価以外でも自分を見てくれていると感じられること(Non-judgement)」、また「気持ちを理解してくれること」の2点が大切ではないかと考えます。
たとえば、仕事以外での趣味を尊重してもらえたり、家族との話を聞いてくれたり、評価のない話をどれだけできているか。
また、事実だけではなく、不安、悲しさ、悔しさ等の気持ちを受け止めてくれる上司にはより心を開いて自分の弱いところも見せられるのではと考えます。
さらに、上司である自身が完璧主義で人にうまく頼れないという面を持っていないでしょうか。
部下は上司の鏡であるとも私は感じます。
ご自身の姿勢も振り返ってみましょう。
さいごに
このように、コロナ禍でのリモートワークの急速な広がりによって管理職の方々は試行錯誤をして来られたことと思います。
仕事の進め方やコミュニケーションの取り方の再構築、見直しを進め、より良いものとするために上記の点を参考にしていただければ幸いです。