あおり運転でドライバーの怒りは発散される?~正しい怒りの鎮め方~
- 2019/10/28
- メンタルヘルス
昨今世間を賑わせているニュースの一つにあおり運転があります。
日常生活や趣味でドライブをする方にとってこのニュースは他人事ではなく、最近ドライブレコーダーを設置したという方も多いのではないでしょうか。
ドライブレコーダーの設置はあおり運転に一定の抑止力があるかもしれませんが、ドライバー自身が感情をコントロールできなければ、世の中のあおり運転は撲滅できないでしょう。
あおり運転は、前を走っている車のスピードが遅い、邪魔をされた、と捉えたドライバーが怒りを感じ、車間を詰めて脅したり、クラクションや罵声を浴びせることで、怒りの感情を発散する行為です。
世間では、怒りを感じた時は、溜め込まないで発散するのが効果的、と考えられているかと思いますが、果たして相手をあおることで怒りを発散したドライバーは、その後、気分は落ち着くのでしょうか?
怒り感情の鎮め方についてアメリカである実験が行われましたので2つご紹介します。
怒りを発散すると、さらに攻撃的になる
一つ目はアイオワ州立大学で行われた実験です。
この実験では、まず初めに被験者の学生に作文を書いてもらいました。
作文は一旦回収され、別の学生が添削したと告げられて作成者の元に返却されます。
ネガティブなコメントを読んだ学生は、不快な気分になり、怒りを感じることになります。
続いて、これらの被験者を2つのグループに分ました。
Aグループの学生らには、添削した相手の顔写真を貼ったサンドバッグを個室で叩いてもらいました。
Bグループの学生らには、個室で2分間静かに座っているようにしてもらいました。
その後、それぞれのグループの被験者に現在感じている怒り、不快感、欲求不満などの情緒を測定する質問表に回答してもらい、情動調整の状態を確認します。
実験はさらに続きます。
被験者に二人一組となってゲームを行ってもらいます。
勝者には、「敗者の顔の前で大きな破裂音を立てる」権利が与えられます。
その破裂音の大きさや長さは勝者が自由に選択できるルールで、結果はコンピュータで正確に計測され、攻撃性の程度が測定されました。
さて、先ほどサンドバックを叩き、怒りを発散できたと思われる人たちの攻撃性はどうなっていたと思いますか?
実は、サンドバッグを叩いたAグループの学生たちは、静かに座っていたBグループの学生らにくらべ、情緒面でも行動面でも攻撃性が増していることがわかったのです。
怒りとマイナス経験から何を得られたか?
もう一つの実験はマイアミ大学で行われました。
300人以上の学生を被験者とし、「自分が人から傷つけられたり、嫌な思いをさせられた体験」を文章に書いてもらいました。
その後、被験者を3つのグループに分けて別々の課題に取り組んでもらいました。
Aグループは、「体験に伴う自分の怒りの関することと、自分に与えたマイナスの影響」について数分で詳しく書くよう指示されました。
Bグループには、「その体験から自分が得たこと」について数分で書いてもらいました。
Cグループは、コントロールグループとして、「翌日の予定」だけを書いてもらいました。
最後にすべての被験者に、自分を傷つけた相手に対する考えや気持ちを測定する質問紙に回答してもらいました。
この実験でわかったことは、ネガティブな体験をした時に、その体験から得たポジティブな事柄を数分間考えるだけで、怒りや不快感が鎮まっただけでなく、さらに自分を傷つけた相手を許す気持ちが生まれ、その相手に仕返ししたり、避けたいという感情が減ったということです。
正しい怒りの静め方とは?
これらの実験から、効果的な怒りの鎮め方として、以下2つの方法が挙げられます。
一つは、感情を鎮めるために、一旦その場を離れ、冷静になる時間と空間を持つこと。
いわゆる「タイムアウト」と呼ばれ、不適切な行動を起こした子どもに対して、別室で落ち着いて考えさせるために与える時間として、アメリカの教育現場ではよく行われる方法です。
もう一つは、不快な体験から、自分が得たことや学んだことなどを整理し、書き出してみることです。
これにより、怒りの感情への対処力をアップし、レジリエンスを強化できることが期待されます。
あおり運転を代表とする、怒りの感情を生のままぶつけて発散する方法は、イライラが発散されるどころかますますヒートアップし、人間関係の破綻や社会的信用を失い、傷害事件にまで発展する可能性もあり、人生を棒に振る結果になりかねません。
しかし、一旦冷静になり、不快に感じる状況からでも、何かを学ぶことができれば、怒りの感情も建設的な方向に活用することができます。
怒りは喜怒哀楽の一つとして、人間に生まれつき備わっているもので、一生涯付き合っていくものです。
だからこそ、怒りを暴発させるのでなく、思慮深く行動できれば、穏やかな生活や人生を送ることができるのではないでしょうか。
<参考文献>
・ Bushman, J. B.,「Does Venting Anger Feed or Extinguish the Flame? Catharsis, Rumination, Distraction, Anger, and Aggressive Responding」(Personality and and Social Psychology Bulletin, 28(6),724-731)
・ リチャード・ワイズマン(著)、木村博江(翻訳)『その科学が成功を決める』(文藝春秋)