がん教育と時短制度の導入を~産業保健フォーラム IN TOKYO 2019~
- 2019/10/16
- 産保新聞ニュース
2019年10月2日、東京都江東区のティアラこうとうで「産業保健フォーラム IN TOKYO 2019」が開催されました(主催:東京労働局、東京労働基準協会連合会、東京産業保健総合支援センター)。
今回は本フォーラムのうち、東京大学医学部付属病院の中川恵一医師による特別講演「職場におけるがん教育ー両立支援をめざして―」をご紹介します。
日本はがんのデータ管理が遅れている
日本においては現在、働く人の、自殺・事故死以外の死因の9割はがんが占めています。
つまり、病気で亡くなる場合は、ほぼがんであるといえます。
また、欧米では30~40年前にがんのデータ管理制度が整っているのに対し、日本におけるデータ管理制度「全国がん登録」が始まったのはは2016年とごく最近のことで、日本はこの点において他国の後塵を拝しています。
さて、この2016年から始まった「全国がん登録」ですが、これによりある数字に変化がおきました。
ある数字とはずばり「新規がん患者数」。
以下のように、推移し始めたのです。
2014年:867,408人
2015年:891,445人
2016年:995,132人
2015年と2016年を比較すると、一挙に新規がん患者が増えたように見えますね。
しかし実はそうではないのです。
全国がん登録が始まったことで、ようやくがん患者数の実態を把握できるようになったことを意味するのです。
「2人に1人ががんになる時代」ではなくなる
みなさんは「2人に1人ががんになる」という言葉を聞いたことがありますか?
これは一生のうちにがんになる確率が、男性は62%、女性は47%であることに起因するものです。
しかし、全国がん登録で正確な数値が把握できるようになったことから、今後は「男性は3人に2人、女性は2人に1人ががんになる」時代がやってきます。
誰ががんになってもおかしくない時代に。仕事との両立はどうする?
中川医師によれば、「がんは、早期発見できれば、仕事と治療の両立は容易である」とのことです。
一方で、中川医師自身が実際にがんを経験して、分かったことがあるとも付け加えました。
・ がんは症状が出にくい
・ 「自分はがんにならない」と思っている
日頃からがん教育を行っている中川医師でさえ、「自分はがんにならない」と思ってしまうということは驚きです。
人間は、そういう生き物なのかもしれませんね。
また、がんの早期発見のためには、検診を受けることが必要です。
しかし、日本の検診受診率は、欧米諸国とくらべてもかなり低い状況にあります。
なぜでしょうか?
どうする?大人のがん教育
日本のがん検診受検率が低い理由。
それは、がんについての教育を、誰も受けていなかったからです。
がんは早期発見できること、早期発見のためには検診を受けなければならないこと、これらを誰も教えてくれなかったのです。
みなさんは、現在の学校教育では「がん教育」を行っていることをご存知でしょうか?
今の中学生は、がんのこと、がん検診のことを学んでいます。
では、大人はどこで学ぶのでしょうか?
職場で学ぶしかないですよね。
両立支援体制づくりで大事なのは、時短勤務
また、がんの治療と仕事を両立させようとがんばる従業員を応援するうえでで大切なことは、時短勤務制度の整備とのこと。
がんと診断された社員は、治療や検査のため、またがんの症状や治療による体調不良で出社できないこともあります。
そんな中で役立つのが、休暇制度や在宅勤務制度、フレックスタイム制度、時短勤務などです。
フルタイムと時短勤務では、復職率が異なり、時短勤務制度が導入できれば、3人中2人以上のがんサバイバーが復職できるという研究結果があります。(遠藤ら. Journal of Cancer Survivorship 2015)
また、その他の職場環境づくりで役立つのが、2019年5月発行の「がんになっても安心して働ける職場づくりガイドブック」。
このガイドブックは「大企業向け」と「中小企業向け」に分かれており、筆者の所属するドクタートラストでもこれから実践していく見込みです。
がん教育で早期発見
これから働く世代でがんになる人が、増えていくことが予想できます。
誰ががんになってもおかしくない中、いつまでも働きつづけるために重要なのは「がんの早期発見」です。
「早期発見」のためには、がん検診の定期受診が求められます。
そして、がん検診の受診を従業員に促すために欠かせないのは、「がんってどんな病気なのか?」「なぜがん検診が必要なのか?」「がん検診ってどんな検査をするの?」などといった、がん教育。
がん教育をすすめていくと同時に、がん治療を受けることになった社員が、治療を受けながら働きつづけやすくなるための、勤務制度などを整えていきましょう。