以前、保健指導をより効果的にするための「行動経済学」の活用方法をご紹介しました。
従来の経済学は、人は“合理的”に行動するということを前提としていますが、行動経済学は、人は“実際”にどのように行動するかを実験により検証することからはじまります。
人が常に合理的に行動していれば、現在以上の生産性向上の選択肢をあげることは難しいでしょう。
皆が合理的に働くことができていれば、働き方改革なるものも必要ありません。
報酬(=簡単にお金と考えます)が絡む事象において、人はどのような行動をすることが現実的なのか、人の行動から心理を探り、経済活動を解いていくのが行動経済学です。
経済学が得意だった人にも、経済はちょっと苦手という人にも、行動経済学はとても身近で応用しやすい学問といえます。
ダン・アリエリーというアメリカの行動経済学の研究者が行ったいくつかの実験には、人のやる気やモチベーションを引き出すヒントが隠されています。
[実験1]
参加者を2グループに分け、レゴ社のブロックを使用したフィギュアを組み立ててもらいます。
レゴ1体を作成するにつき報酬が支払われますが、組み立てた数が増えるごとに、一体あたりの単価は減少していきます。
その結果、いくらの報酬までレゴを組み立てるか、を調査するというものです。
この手順を2つのグループで、以下のような異なる状況下で行います。
グループ1:完成させたレゴは、完成後しばらく机の下に置かれた後に解体する
グループ2:組み立てたレゴは完成したそばから次々に壊していく
[実験1 結果]
グループ1は平均11個のレゴを、グループ2は平均7個のレゴを完成させました。
[実験2]
複数の参加者に、ランダムに文字が印刷されている紙を配り、同じ文字が書かれたペアを見つけ、報告することで報酬をもらえます。
実験1と同様、ペアを見つけた回数を重ねるごとに報酬額は減っていきます。
この手順で3つの状況下に分けました。
グループ1:ペアを見つけたら、紙に自分の名前を記入し提出。回収する者はその紙を確認してから報酬を渡す
グループ2:ペアを見つけたら、紙には自分の名前は記入せず提出し報酬をもらう
グループ3:ペアを見つけ提出するとシュレッダーにかけられ、報酬をもらう
[実験2 結果]
グループ1が最も少ない報酬額まで行動を継続し、その次がグループ2、この行動をすぐにやめたのはグループ3でした。
グループ1と3では、報酬額が2倍程度も異なったということです。
行動経済学から見えてくるモチベーションの源
上記2つの実験は、成果を認知すること、されることが報酬以上の行動を継続するきっかけになることを示唆しています。
4月から新社会人になった人や新しい部署に異動になった人で、まだ仕事に慣れない人もいるかもしれません。
そのような方は、自分で自分を認めることから始めてはいかがでしょうか。
最初はわからないことが多くて頻繁にメモを取っていた人も、最近はメモを見ることも減ったと、自分の変化に気づくことがあるかもしれません。
自分の成長を自分で振り返ることは大切です。
メンターや管理職は、個々のメンバーが最大限力を発揮できる環境を作り出しているかどうかを含め、コミュニケーションを大切にしたいものです。
行動経済学について理解を深めることは、働くうえにおいても、生活するうえにおいてもメリットが多いと思います。
行動経済学を通じて人の心理状態を理解することは、生産性向上のカギとなるでしょう。