社会保険加入条件緩和で、産業医選任義務の事業場は拡大するか?

2016年10月からの法改正

2015年12月から始まったストレスチェック制度。
制度施行初年度ということもあり、各企業とも試行錯誤しながら運用している印象を受けます。

ストレスチェックと同様に人事部を悩ませる可能性のある法律改正が、2016年10月に施行されます。

平成24年8月10日に成立した「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」です。

この中に、社会保険加入条件の緩和に関する内容があります。

現行法では、一般的に社会保険加入のためには、週30時間以上の労働時間が必要です。
しかし、この法律によって下記の通り、社会保険加入の適用が拡大されるのです。

① 週20時間以上の労働をしている
② 月額賃金8.8万円以上(年収106万円以上)

※ 上記のうちで、勤務期間1年以上が見込まれる者
※ 対象者に学生は含まれない
※ 平成30年度までは、平成28年10月1日の時点で、従業員数501名以上の事業所が対象となり、500名以下の事業所は努力義務
※ 平成31年度から、500名以下の事業所でも適用

改正の背景

厚生労働省は、今回の適用拡大の考え方 として、次の2点を上げています。

〇 被用者でありながら被用者保険の恩恵を受けられない非正規労働者に社会保険を適用し、セーフティネットを強化することで、社会保険における「格差」を是正する。
◯ 社会保険制度における、働かない方が有利になるようなしくみを除去することで、特に女性の就業意欲を促進して、今後の人口減少社会に備える。

前者については、確かにその通りだと思います。後者に関しては、いかがでしょう?
これまで家族の扶養の枠組みのなかで働いていた人が、その枠を越えて今後働くのか?という点です。
企業の人事部の方々とお話するなかでも、この話題が出てくることが増えました。

「現在は、約200名の新規加入者が見込まれていますが、実際のところ、わかりません。今後、従業員に説明しながら加入数を探ります」

「社会保険の加入を避けて、勤務時間を減らすアルバイトの増加も見込まれます。その場合、新たに短時間勤務できるアルバイトを雇用しなければなりません」

社会保険加入者が増えると、その分、企業が負担する保険料も増えるわけですから、予算確保の必要性も出てきます。
年度途中での、予算・人材の確保が必要となることからも、社会保険加入条件の緩和は、人事部としては悩ましい事案といえるでしょう。

社会保険加入数=産業医選任のための従業員数?

さて、「社会保険加入者を、産業医の健康管理指導の対象者に含めるか否か」という話があります。
実際に、いつくかの企業から、【社会保険加入=常時雇用】との考えから、産業医未選任の既存の事業場において、産業医の選任を考え始めているといった話を伺いました。

東京都労働局に確認したところ、「現時点では、社会保険加入者数と、産業医選任義務にあたる常時50名以上を雇用する事業場の従業員数は必ずしもリンクしない」との回答がありました。
結論としては、社会保険加入者を産業医選任義務に当たる50名の従業員とはカウントしなくてよい、ということです。
ただ、定期健康診断を受診しており、保険料を企業が支払っていることなどから考えても、今後、【社会保険加入=産業医選任のための従業員数】となる可能性も否定はできません。
日本医師会から、対象となる事業場の人数を50名から30名に引き下げるべきといった提言もなされています。

非正規労働者の拡大

非正規労働者数は、全労働者数の約4割といわれます。
産業医の選任義務は、法律の定める事業場にありますが、今後は、現行で義務のない事業場においても、産業医による健康管理指導の対象として考慮すべきということだと思います。
社会保険加入基準の緩和を機会に、検討をされてはいかがでしょうか。

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