【紙袋はもう古い?】過呼吸の対処法を解説!周囲の人ができるサポートも紹介!
講師:横川さとこ(保健師)
最近、急に過呼吸状態になることがあり不安です。受診したほうがよいのでしょうか?
過換気症候群やその他の疾患の可能性が考えられます。
一度だけでなく頻繁に起こるようであれば、受診することをおすすめします。
「過呼吸」という言葉、聞いたことのある方が多いのではないでしょうか。
実際に過呼吸状態に陥ったことのある方や、陥っている人を見たことのある方もいらっしゃるかもしれませんね。
今回は過呼吸になったら受診したほうがいいのか、また過呼吸になった場合どうしたらいいのかについて説明します。
過呼吸とは?
日本呼吸器学会によると過呼吸状態とは「何らかの原因、たとえばパニック障害や極度の不安、緊張などで息を何回も激しく吸ったり吐いたりする状態」であるとされています。
また「頻呼吸」は呼吸回数が増える状態であるのに対し、「過呼吸」は1回あたりの呼吸の深さが増加する状態とされていますが、通常は「過呼吸」であっても呼吸回数は増えると考えられています。
つまり、過剰に深く、速く、呼吸をしすぎてしまう状態が「過呼吸」ということです。
一般的に「過呼吸」というと、不安や緊張など精神的な要因で生じると思われがちですが、誰でも激しい運動などをすれば、呼吸は深く速くなりますよね。
また、肺や心臓の疾患によって呼吸に異常が生じることもあります。
精神的要因による「過呼吸」は、激しい運動をしたわけでもなく、また肺や心臓に異常があるわけでもなく、突発的に起こるものです。
人は「過呼吸」状態に陥ると、酸素を過剰に吸い込み、二酸化炭素を過剰に吐き出すので、血液中の二酸化炭素濃度(ガス濃度)が低くなります。
この状態になると、脳内で呼吸をつかさどっている呼吸中枢は「過剰に呼吸をしているので呼吸を減らせ」という指令を出し、呼吸が抑制されてしまいます。
ただ自覚的には「呼吸ができていない」という息苦しさを感じているので、呼吸が抑制されたことでさらにたくさん呼吸をしようとし、どんどん血中のガス濃度が下がり、呼吸が抑制された状態が続き、過呼吸状態が悪化していきます。
また、血液中から二酸化炭素が減ったことで、もともと中性だった血液がアルカリ性に傾いてしまい、細胞が正常に働けなくなり、手足のしびれや筋肉のけいれん、硬直、意識障害などが起こることもあります。
そのほか、めまい、動悸、胸痛を自覚することも多いです。
呼吸困難感に加えてこのような症状に襲われることを想像すると、恐ろしくなりますね。
その不安や恐怖から「過呼吸」が悪化するという悪循環が生まれます。
このような状態を「過換気症候群」とよびます。
実際に「過呼吸」に関する保健師へのご相談は多く寄せられており「急に呼吸ができなくなり、手足がしびれていき、このまま死ぬかもしれないと感じた。強い恐怖と不安に襲われた」など、切実な訴えをお聴きすることもしばしばあります。
しかし過呼吸状態に陥っているときの人間の体は、本人の自覚症状は別として、酸素は十分に足りている状態なので、そのまま死んでしまうということはありません。
辛い症状も、呼吸が落ち着くまでの一時的なものであり、長くても30分から数時間ほどでおさまります。
そのため後遺症が残ることもありません。
しかし、過呼吸が一度きりでなく頻繁に起こるようであれば、受診していただくことがおすすめです。
生命に影響がなくても受診したほうがよい理由
先述したとおり、過呼吸そのもので死ぬことや、体に後遺症が残ることはありません。
しかし「過換気症候群」だと思っていたら、実は心臓や肺など体の疾患が原因で過呼吸に陥っていたということもあり得ます。
その場合は生命にかかわりますので、速やかに体の治療が必要となるでしょう。
自己判断で「過換気症候群」だと決めつけず、まずは体に何も異常がないことを確かめるためにも、受診し、検査を受けていただくことをおすすめします。
身体に異常がなかった場合、過呼吸以外の症状(筋肉のけいれんや硬直など)や、血液中の酸素と二酸化炭素の量などを加味して「過換気症候群」の診断がなされます。
たとえ命に別条のない過換気症候群による過呼吸だと診断されても、過呼吸が起きる時間帯や場所によっては、重篤な事故に巻き込まれる危険性があります。
たとえば通勤時、自動車の運転中や駅のホーム端で発症するとどうなるでしょうか。
運転や高所作業、危険作業を伴うお仕事に従事されている方が業務中に発症すると、命にかかわることもあります。
過呼吸が起きたときに落ち着いて運転や作業を中断し、安全な場所へ移動することができればよいのですが、冷静に行動することは難しいのではないでしょうか。
そうした事故を防ぐためにも、継続して受診し、過呼吸に備えることが有効です。
病院では過呼吸が起きたときにどう対処すればよいか、適切なアドバイスをもらうことができます。
また過呼吸が起きる原因となっているパニック障害などの精神疾患や強いストレスがないかを調べ、投薬による治療やカウンセリング、強い緊張や不安を避ける日常生活の過ごし方についてのアドバイスなどを受けて、過呼吸の再発予防にも取り組むことができます。
症状が落ち着くまでは事故リスクの低い比較的安全な仕事ができるよう、主治医の診断書を会社へ提出することも検討できますね。
主治医だけでなく会社の産業医や人事、上司と相談することで、より安心して仕事を続けられるでしょう。
たとえ事故の危険性がなくても、日常生活の中で何度も過呼吸状態に陥ることは精神的なストレスとなりますし、そのストレスがさらに過呼吸を起こすという悪循環に陥りがちです。
中には過呼吸を恐れるあまり、外出もままならなくなり、日常生活に支障をきたしてしまう方もいらっしゃるので、そうならないためにも早めに受診していただくことをおすすめします。
実際に過呼吸状態になったらどうしたらいい?
過換気症候群による過呼吸では、過度に呼吸をしてしまい、血液中の酸素が増えて二酸化炭素が減った状態になって、脳の呼吸中枢が呼吸を抑制するとご説明しました。
呼吸の抑制を解除するためには、過度の呼吸を止めなければいけません。
つまり、ゆっくりと小さな呼吸をするか、むしろ呼吸を一時的に止めることが有効です。
また、息を吸うことよりも吐くことを意識し、5秒以上かけて長めに吐き出すとよいでしょう。
とはいえ息苦しさを感じている最中に、いきなりそのように冷静な対処をすることは難しいと思います。
そこで大切なことは、日頃から自分自身に暗示をかけておくことです。
「過呼吸状態になっても死ぬことはあり得ない。つらくても30分ほどやり過ごせば必ずよくなる。呼吸をゆるめても、止めても、絶対に大丈夫」と、自分の中でお守りのように暗示しておくとよいでしょう。
こうした自己暗示をするだけで過呼吸の発症そのものが減ったという方もいます。
また、従来行われていた紙袋を口にあてて息をするという方法は、今は推奨されていません。
この方法は紙袋をあてることにより、自分が吐いた息を再度吸い、血液中の二酸化炭素を増やすためにおこなわれてきましたが、むしろ酸素が減りすぎ、二酸化炭素が増えすぎてしまう危険性があることが明らかになっており、注意が必要です。
自分自身ではなく周囲で過呼吸状態になっている方を見かけた場合は、まずは安全が確保できる場所かどうかを確認し、本人が安心できるよう、慌てずにゆったりとした口調で声をかけてあげるとよいでしょう。
落ち着いてゆっくりと小さく呼吸をすること、5秒以上かけて息を吐く呼吸法をアドバイスします。
となりで一緒に呼吸法を行ってあげてもよいですね。
周囲の人がパニックになって過度に大騒ぎすることや、たくさんの人を集めることは、本人の不安を煽ることになってしまいますので、できるだけ静かに落ち着いて呼吸を整えることができるように気を配りましょう。
過呼吸はつらい症状ですが、適切な対応をおこない、上手にコントロールしていくことで、日常生活や仕事を安心して続けていくことが可能です。
また原因として身体疾患が潜んでいることもありますので、過呼吸に悩んでいる方はまずは受診してみてはいかがでしょうか。
ぜひ試してみてください。
<参照:一般社団法人日本呼吸器学会 呼吸器の病気「過換気症候群」>
