健康診断で「要再検査」「要精密検査」「要医療」など有所見と判定された社員がいます。健康診断をきちんとやっていれば、その後の二次健康診断(二次健診)や治療のための受診勧奨はやらなくてもいいですか?
会社が健康診断の有所見者に受診勧奨をしないことで、有所見者が倒れたり亡くなったりした場合、安全配慮義務違反に問われ、刑事罰や損害賠償責任を負う可能性があります。
受診勧奨まできちんとおこなうことが望ましいでしょう。
ご存知のとおり、従業員に健康診断を受けさせることは会社の義務です。
では健康診断の結果「要再検査」「要精密検査」「要医療」など何か所見があると判定された従業員に対しては、どのように対応すればよいでしょうか?
再検査、精密検査、治療などを受けるように受診勧奨をすることは、会社の義務なのでしょうか?
厚生労働省の指針や過去の判例から、どうするべきかをご紹介します。
厚生労働省の指針
平成29年に厚生労働省が公示した「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」において、下記の記述があります。
事業者は二次健康診断の対象となる労働者を把握し、当該労働者に対して、二次健康診断の受診を勧奨するとともに、診断区分に関する医師の判定を受けた当該二次健康診断の結果を事業者に提出するよう働きかけることが適当である。
健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
つまり、健康診断で所見のあった従業員に受診勧奨をおこない、受診した結果を会社に提出してもらうように働きかけることが適当であるということです。
実際の判例
実際に会社が従業員に受診勧奨をしなかったことで安全配慮義務違反に問われた事件があります。
あるソフト開発会社でシステムの開発をしていた33歳のAさんが脳幹部出血で亡くなってしまった、いわゆるシステムコンサルタント事件です。
Aさんは入社直後から血圧が高く、年々悪化し、最終的には治療が必要なほどの重度の高血圧に加えて心肥大も確認されていました。
しかしAさんは病院へ行かず、精密検査や治療を受けることはありませんでした。
またAさんの亡くなる前の残業時間は月に100時間以上、特に直前の1週間には73時間以上と非常に長く、さらに業務の内容も強い精神的な緊張を伴うものでした。
会社はAさんの血圧や業務状況を把握していました。
しかしAさんの病院受診のスケジュールは作成したものの、それ以上の受診勧奨や、残業時間の制限、業務の軽減などの措置は何もおこなわず、放置してしまっていたのです。
その結果Aさんは亡くなり、会社は遺族から訴えられ、安全配慮義務違反と判決を受けて損害賠償を負うことになりました。
裁判所は、会社がAさんへの受診勧奨を徹底しなかったことに対して「労働者が自身の健康を自分で管理し、必要であれば自ら医師の診断治療を受けることは当然であるが、使用者としては右のように労働者の健康管理をすべて労働者自身に任せ切りにするのではなく、雇用契約上の信義則に基づいて、労働者の健康管理のため安全配慮義務を負うというべきである」と示しています。
つまり受診勧奨をおこなうことも安全配慮義務の一環であることを示したのです。
法律で明文化されていなくても……
以上より有所見者への受診勧奨は、法律で明文化されてはいませんが、安全配慮義務の履行のために必要であるといえます。
また健康診断は従業員の健康状態を知るための貴重な機会です。
たとえ倒れたり亡くなったりしなくても、健康状態の悪さによって仕事のパフォーマンスが低下してしまっている従業員がたくさんいるかもしれません。
その結果、職場全体の生産性が下がり、会社の業績に影響を及ぼすこともあります。
そうならないためにも、従業員の健康診断の結果が返ってきたら、放置せずに産業医に見せて意見を聴き、意見をもとに就業措置をおこなうとともに、有所見者への受診勧奨をおこなうことが望ましいでしょう。
従業員が安全で健康に働いて、会社の業績がアップするように、健康診断結果をぜひ活用していただきたいです。
